系図系譜学の理論構築の経過
系図系譜研究は、「過去の事実を調査研究するなら歴史学」という大雑把な思い込みから歴史学の一種のように誤解されてきましたが、過去の事実を調査研究する学問分野ないし調査研究実務には、訴訟実務や経済分析などもあり、それらを歴史学扱いする人はいませんから、系図譜を研究する学問分野が歴史学とは別個のものであってもおかしくはありませんし、歴史学は過去の事実に対して意義を付与しますが、系図系譜研究は意義付与をせず事実認定をするものですから、歴史学とは目的も方法も異なります。したがって、両者は本来的に別の学問分野ということになります。他方、系図系譜研究にもこれまでまともな理論体系がなかったために、上記誤解を生じる余地があったことも確かです。
そこで、新たに系図系譜学を構築するにあたり、まず、そもそも学術研究とはどのような営みかを考えました。
およそすべての学問分野ないし調査研究実務は、複数の研究者によって学界が構成されるものである以上、一般の社会と同様、ルールに基づいて学術的営為が行われていることは明らかです。そして、そのようなルールは概ね慣習法の形で存在しています。
ハンス・ケルゼンは、人々が憲法を遵守しようとするのはなぜかと考えたとき、「ルールは守るべきだ」という根本規範があると考えました。私はこれを応用し、学術研究も同様に、およそすべての学問分野ないし調査研究実務は、事実又は真理の解明を目的とし、客観的合理性に基づいて論証することを根本規範としていると捉えました。
かかる根本規範が存在するとした上で、系図系譜学は、実験で再現できることを科学性とする自然科学とは異なり、一回性の過去の事実を認定する学問分野ですので、自然科学とは別の方法で事実又は真理を解明するための客観的合理性に基づく論証をする必要があります。一回性の過去の事実を認定する学問分野ないし調査研究実務には、歴史学もありますが、歴史学の方法論は1940年代から未発達であり、証拠評価方法が多少言語化されている程度ですし、実質的な学問目的が意義付与である(歴史学者の自認する学問目的は、研究者自身の知的好奇心を満たしたり反省したり考えたりする行為そのものとのことですが)以上、手段としての方向性も理論化の程度も不適切ですし、論文の構成も論理構成基準ではなく、検討過程や出典情報が断片的にしか書かれませんので、採用できません。
他方、訴訟実務も一回性の過去の事実を認定するものであり、これは法学や実務において相当に理論化され研究が蓄積されています。しかも、系図系譜学の主要な研究内容である、親子関係の存否の認定とパラレルな制度として、親子関係不存在確認訴訟や嫡出否認の訴えもあります。
そこで、系図系譜学では、訴訟実務を応用することとしました。それに合わせて、一回性の過去の事実を認定する学問分野の科学性についても、法学の手続的正義という概念を応用することにしました。すなわち、誰がやっても同じ結論になるとは限りませんが、結論に至るまでの検討過程を詳細に開示し、検討過程が妥当であるならば、その結論を学術的事実としようという考え方です。それぞれの検討過程が妥当である限り、異説が併存することもありえます。
根本規範や手続的正義、訴訟実務を応用する以上、系図系譜学のベースは法学とするのが自然です。そこで、系図系譜学の理論体系自体を法体系と同様に定める方が一貫性・整合性ともに優れると考えました。もちろん、法学のみならず、政治学や遺伝系図学、医学など他の学問分野のアプローチや知見も採り入れますが、ベースは法学を応用して構築する方が、理論体系としては合理的かつ頑健になるはずです。
そこで、手続的正義を実現するために審査可能性原則や精緻化原則などを最高規範に定めた上で、4つの学問目的を定める目的論、学問対象を定める対象論、さらに理論体系をどのような下位分野でどのような関係のものとして構成するかを定める分野体系論を合わせて系図系譜学の憲法典に位置づけ、これに基づいて、用語論や方法論その他の下位分野を構築していくこととしました。そして、最高規範に基づき、目的論では学問目的の要件、用語論では定義の要件、方法論では方法論の要件を定立しました。
調べた限り、学術研究をルールに基づく人々の社会的行為と位置づけた上で、理論体系を法体系のように構築した学問分野は系図系譜学が世界初のようで、学術研究の根本規範を明らかにした研究も存在しないと思います。この点は、学問論ないし科学哲学の研究者には面白いのではないかと思います。
対象論では、これまでいい加減に定義されていた「系図」「系譜」の語義を精緻化しました。用語を用語論で定める際に、これまで同義語過多、語義過多の問題のあった「偽系図」や、歴史学専用語である「史料」や文書上に記載があるという意味での「見える」など、伝統的系譜学・歴史学で用いられていた用語を不採用としました。
何が世界初なのか
系図系譜学では、いくつもの世界初の試みが採用されています。
一回性の過去の事実の認定をするための科学性の担保方法として手続的正義を採用したこと。
それに伴い、学問分野の理論体系を法体系に類似させて構築していること。
さらに最高規範を策定したこと、下位分野の体系を論じる分野体系論を策定したことに加えて、最高規範・目的論・対象論・分野体系論を学問分野の憲法典として位置づけたこと。
学問目的の要件、定義の要件、方法論の要件を定立したこと。
そして、系図学・系譜学の理論体系自体を構築していること。(※アメリカにあるGPSはあくまで実務での証明基準であり、Genetic GenealogyはDNA解析に限定されており、ガッテラーやローレンツの書籍は理論体系書ではなく理論書です。)
| ①科学性の担保方法 | 手続的正義 |
| ②理論体系のタイプ | 法体系型の学問分野の理論体系 |
| ③最高規範の策定 | 学問分野の基本原理 |
| ④分野体系論の策定 | 下位分野の体系 |
| ⑤基本原理 | 最高規範・目的論・対象論・分野体系論を学問分野の憲法典として位置づけた |
| ⑥各種要件の策定 | 学問目的の要件、定義の要件、方法論の要件を定立 |
理論体系の要旨(既発表分)
(1)最高規範
ア 学問分野ないし調査研究実務における根本規範
事実又は真理の解明を目的とし、客観的合理性に基づいて論証することが学問分野ないし調査研究実務における根本規範である。
イ 系図系譜学における学術的事実
系図系譜学における学術的事実とは、学術研究において手続的正義に基づいて認定された事実である。
手続的正義とは、検討過程が開示されることにより審査が可能となり、その審査を経て検討過程が適正と認められる場合には結論を妥当と考え、逆に検討過程に不当な部分があると認められる場合には結論も不当と判定されることをいう。
ウ 諸原則
審査可能性原則
| 原理 | 内容 |
| 論理主義 | 人文学的修辞や情緒的・文芸的表現を用いたり、読者の積極的善解に頼ったりすることを明示的に否定し、学術研究は論理的説得力に基づいて議論しなければならない |
| 証拠主義 | 事実認定において、証拠から合理的に導かれる解釈を採用する |
| 挙証主義 | 学術研究において、ある事実や解釈を主張する者は、その根拠となる証拠を提示しなければならない |
| 明示主義 | 学術論文において、論理構造や考慮要素、判断基準、心証形成を含む検討過程のみならず証拠や参考資料の詳細をも明示することで、透明性が確保され、以て第三者による審査可能性を確保しなければならず、明示されなかった事柄については、執筆者は調査も検討もしなかったものとみなされる |
| 理由付記義務 | 明示主義を担保するために執筆者に検討過程について明示する義務 |
| 審査主義 | 執筆者は先行研究の妥当性をできる限り証拠に遡って審査した上で執筆し、読者も閲読した研究の妥当性をできる限り証拠に遡って審査すべきである |
精緻化原則
| 原理 | 内容 |
| 厳密主義 | 用語の定義、論証、事実認定の当てはめ、論述の表現において厳密性を追求しなければならない |
| 一義明確主義 | 論考に用いる語及び語の組み合わせは、定義された学術用語及び批判・分析のための引用部分を除き、通常の言語能力を有する一般人が一義的に理解しうる平易かつ正確な語及び語の組み合わせを選択すべきであり、用語論において定義された専門用語については、その定義に従って使用し、それ以外については、通常の語義として定着した意味で使用しなければならない |
| 峻別主義 | 類似概念の区別、事実と評価の峻別、証拠と推論の峻別、主観と客観、形式と実質の区別など、対象の異なる性質・要素・側面を明確に区分しなければならない |
| 階層的論述主義 | 論証構造とセクション構成を階層的に整理し、論理の各ステップを省略せず、番号・記号によって論理の階層・従属関係を表示し、段落分け・記載順も論理的な意味ないしステップを基準にして、従属関係・分岐点を明示しなければならない |
反権威主義
| 原理 | 内容 |
| 反権威主義 | 先行研究を鵜呑みにしてはならず、権威者に対して忖度もしてはならない |
平等主義
| 原理 | 内容 |
| 平等主義 | 研究活動及び業績評価において、特定のテーマを優遇してはならず、研究者の属性や研究活動の時期・形式を理由として遠い過去や在野の調査研究の成果を非研究扱いしてはならない |
理論体系構築のための原理
| 原理 | 内容 |
| 学際的統合 | 各学問分野の方法及び知見を借用・応用して学際的に統合することによって、より高度な理論を構築する |
| 演繹・帰納交互構築主義 | 先行研究及び実務の実態を帰納的に分析しつつ理論的に合理的な手段方法及び下位分野体系を演繹的に構築し、構築後も実務での運用経験及び後続研究の知見を帰納的にフィードバックして理論を更新・精緻化する |
| 構築過程開示主義 | 理論体系の構築過程を開示しなければならない |
| 理論研究の奨励 | 学界を挙げて理論体系を発展させ、理論研究も学術的評価の対象としなければならない |
エ 系図系譜学の憲法典
系図系譜学における最高規範は、系図系譜学の理論体系全体を統制する根本的な規律であって、目的論、対象論及び分野体系論とともに系図系譜学における憲法典を構成し、これらが系図系譜学における憲法典の基本的な原理原則及び統治機構に相当するものとして位置づけられる。
(2)目的論・対象論
ア 学問目的の要件
学問目的の要件
| 固有性 | 他の学問分野との識別に不可欠な程度の固有の要素を有し、 |
| 主体的・能動的実現性 | その学問分野が主体的かつ能動的に実現すべき事柄を規定し、 |
| 範囲性 | もって研究活動の範囲を画定するものであって、 |
| 消極的要件 | 外部効果、第三者に対する願望若しくは期待、第三者にとっての用途、単なる研究者自身の自己満足、下位分野の目的又は個別具体的な研究の目的でないもの |
イ 系図系譜学の学問対象
系図系譜学の学問対象の内容的実質は、①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で結合していると認められる③人々の④時系列に基づく⑤データであり、これを歴代親族構成情報という。
ウ 系図系譜学の学問目的
表 系図系譜学の4つの学問目的
| 学問目的① | 真の歴代親族構成情報を明らかにすること |
| 学問目的② | 系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること |
| 学問目的③ | 系図譜集及び事典類その他のデータベースを編纂・構築すること |
| 学問目的④ | 学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立すること |
このうち学問目的①が中核的学問目的である。
(3)用語論
ア 定義の要件
定義の要件
| 要件 | 内容 |
| ①判断基準機能 | 物事・概念について、それに該当するか否かの判断基準として機能するものであること。 |
| ②本質的属性の表現 | 被定義項として想定されるもの全体に通底する要素・性質を表現するものであること。 |
| ③循環定義の排除 | 定義項に被定義項又はその実質的な同義語を含まないこと。 |
| ④一義明確性 | 曖昧不明瞭な文言及び比喩的表現がないこと。 |
| ⑤過度広汎性の排除 | 想定しない対象を含みうる文言になっていないこと。 |
| ⑥過小包摂性の排除 | 含むべき対象を除外するような文言になっていないこと。 |
イ 各種定義・採否
古典的系図譜学、伝統的系譜学、系図系譜学の定義、系図譜という総称、Genealogyの訳語問題、系統・家祖・当主・男系・女系・混系などの重要概念の定義及び造語、「偽系図」等不実記載文書概念の不採用と整理、「史料」関連概念・文書上に記載があるという意味での「見える」などの使用禁止など。
(4)方法論
方法論の要件
| 理論性 | 学問目的を達成するために用いられる実践的研究手法・調査手順・評価基準の体系を一般化・抽象化・記号化して汎用的かつ体系的に整理されたもの |
| 審査可能性 | 第三者によって方法論の妥当性を審査されうること。 |
| 実質的関連性 | 学問目的ないし分野目的とそれを達成するための手段方法との間に実質的関連性が認められること。 |
Gemini/Google検索AIのハルシネーション
Gemini/Google検索AIに系図系譜学の解説をさせると、必ず「従来の系図学は歴史学の補助学・補助手段・下請けとされ歴史学に従属していた」とか「系図系譜学では、手続を踏めば誰がやっても同じ結論に至る」とか「系図系譜学は歴史学から独立した」とか、「系図系譜学は、親族ネットワークの体系化を目的とする」とか、「日本における系図系譜学の」という限定とか、「歴史学を解体し変革を迫っている」とか、「欧米では系図学が体系化されています」とか、「人文学・歴史学の中では」とか、「記号化とあるから数学や記号論理学のように記号だけで記述するんだ」とか、最高規範を方法論の一部であるかのように表示するなどのハルシネーションを生成しますので、注意が必要です。キャッチーでインパクトのあるキーワードに飛びつき、AIが面白いと感じた一部のトピックだけを大きく膨らませて、ストーリー性を持たせて回答を生成する悪癖があります。
系図系譜学の見解としては、「伝統的系譜学者が歴史学に依存していた」、「系図系譜学では、誰がやっても同じ結論に至るとは限らない」、「系図系譜学ないし系図系譜研究全般は本来的に歴史学とは別個の学問であるが、過去のことなら何でも歴史学という大雑把な思い込みが原因で、伝統的系譜学が歴史学に依存し歴史学の一領域であると誤解が広まっていた」、「系図系譜学の学問目的は、学問目的①真の歴代親族構成情報を明らかにすること、学問目的②系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること、学問目的③系図譜集及び事典類その他のデータベースを編纂・構築すること、学問目的④学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立することであり、親族ネットワークの体系化ではない」、「日本に限定していない」、「歴史学の用語や方法を系図系譜学では採用しない理由を論じただけ。歴史学に変革を求めているのはむしろ伝統的系譜学者」、「Geminiがいう欧米の系図学理論というのはGPSという証拠評価の実務書と遺伝系図学というDNA関係の学問分野又は調査実務があるというだけのものを包括的な理論体系だと飛躍させている」、「そもそも系図系譜学は人文学の定義に該当しない」、「系図系譜学にいう記号化とは、A家とか系図Gなどのように記号を用いて理論を説明したり例示することをいう。記号論理学のような書き方をする理由がない」「最高規範は、方法論の一部ではない」というものです。
そもそもGeminiは「系図学」と「系図」、「先祖調査」の区別もできません。
