『系図系譜学論究』第1巻第7号に論文が掲載されました

当研究所所長・木下祐也の論文「系図系譜学の理論体系構築のための試論(7)――用語論(4)――」が、学術雑誌『系図系譜学論究』第1巻第7号に掲載されました。

論文概要

本稿は系図系譜学の用語論の第4回として、基本概念から派生概念に至る系統・親族用語全般を論じるとともに、従来、概念が未整備・空白領域であった領域について多数の造語を行った。
基本概念群として、基準者・世代・系統・親族・家・家族・氏族・一族・族閥複合体を定義した。親族法の基本書や法律用語事典に定義のなかった「世代」を「基準者の位置ポイントを0とした相対的位置概念」として確定し「同世代」を定義し、「系統」を単線的概念として定義することで「男系」「母系」等の派生語の定義基盤を整備した。半尊属・半卑属・族閥複合体・同齢層を造語した。
系統概念群として、直系・傍系・男系・女系・混系・父系・母系・重系・父方・母方・共通祖先・直近共通祖先等を体系化した。特に、男系・女系・父系・母系の定義を厳密化し、概念が空白だった領域に造語して「混系」「重系」とした。そのほか父母方・氏族分流・直近共通祖先を造語した。文化人類学の「出自」「父系」「母系」等の語義が社会構築主義を前提とし系図系譜学の学問目的と相容れないことを指摘してその採用を排除した。呼称のなかった「○○氏××流」を「氏族分流」とした。
親族概念群として自然血族関連概念を細分化し、実族・擬制自然血族・非自然血族実族・推定実族・養族・事実養族・姻族の各概念を整備し、民法上の概念の時期・地域的限界を克服した定義を策定した。擬制自然血族・非自然血族実族・推定実族・族祖・事実養族・法定姻族・事実姻族・夫婦養親・夫婦養子を造語した。
続柄概念群では全体出生順位続柄・性別出生順位続柄・父前配・母前配・嫁養子・二重いとこを造語した。
承継概念群では氏祖・家祖・族祖・氏主・族主・当主・家系・嫡流・傍流・庶流・支流・家系断絶・家系廃止・家系再興等を定義し、族祖・氏主・族主・新家創立・分家創立を造語した。

論文情報

  • タイトル: 系図系譜学の理論体系構築のための試論(7)――用語論(4)――
  • 著者: 木下祐也
  • 掲載誌: 『系図系譜学論究』第1巻第7号
  • 発行: 家系研究協議会
  • DOI: https://doi.org/10.69352/keiron.1.7_1

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【研究論文】

系図系譜学の理論体系構築のための試論(7)

――用語論(4)――

  木下 祐也

 

要  旨

 本稿は系図系譜学の用語論の第4回として、基本概念から派生概念に至る系統・親族用語全般を論じるとともに、従来、概念が未整備・空白領域であった領域について多数の造語を行った。

 基本概念群として、基準者・世代・系統・親族・家・家族・氏族・一族・族閥複合体を定義した。親族法の基本書や法律用語事典に定義のなかった「世代」を「基準者の位置ポイントを0とした相対的位置概念」として確定し「同世代」を定義し、「系統」を単線的概念として定義することで「男系」「母系」等の派生語の定義基盤を整備した。半尊属・半卑属・族閥複合体・同齢層を造語した。

 系統概念群として、直系・傍系・男系・女系・混系・父系・母系・重系・父方・母方・共通祖先・直近共通祖先等を体系化した。特に、男系・女系・父系・母系の定義を厳密化し、概念が空白だった領域に造語して「混系」「重系」とした。そのほか父母方・氏族分流・直近共通祖先を造語した。文化人類学の「出自」「父系」「母系」等の語義が社会構築主義を前提とし系図系譜学の学問目的と相容れないことを指摘してその採用を排除した。呼称のなかった「○○氏××流」を「氏族分流」とした。

 親族概念群として自然血族関連概念を細分化し、実族・擬制自然血族・非自然血族実族・推定実族・養族・事実養族・姻族の各概念を整備し、民法上の概念の時期・地域的限界を克服した定義を策定した。擬制自然血族・非自然血族実族・推定実族・族祖・事実養族・法定姻族・事実姻族・夫婦養親・夫婦養子を造語した。

 続柄概念群では全体出生順位続柄・性別出生順位続柄・父前配・母前配・嫁養子・二重いとこを造語した。

 承継概念群では氏祖・家祖・族祖・氏主・族主・当主・家系・嫡流・傍流・庶流・支流・家系断絶・家系廃止・家系再興等を定義し、族祖・氏主・族主・新家創立・分家創立を造語した。

キーワード: 系図、系譜、系図系譜学、用語論、家族法、親族法、相続法、祭祀、承継、氏族、一族、親族、家族、直系、傍系、男系、女系、父系、母系、○○氏××流、嫡流、庶流、本家、分家、宗家、自然血族、文化人類学、混系、重系、父母方、分家創立、氏族分流

 

目  次

 

系統・親族用語 3

(1)基本概念群 3

ア 基準者 3

イ 世代・世代数・尊属・卑属 4

ウ 系統 5

エ 親族 7

オ 家 8

カ 家族 9

キ 氏族・一族・族閥複合体 10

(ア)氏族 10

(イ)一族 10

(ウ)族閥複合体 11

ク 邸宅 11

(2)系統概念群 11

ア 序 12

イ 基準者相対概念(直系・傍系) 13

ウ 実養別系統概念(実系・養系・疑似実系・非自然実系) 14

エ 男女別系統概念(男系・女系・混系) 15

オ 父母別系統概念 16

(ア)序 16

(イ)文化人類学用語の不採用 16

(ウ)父系・母系・重系・父方・母方 17

カ 共通祖先概念 18

キ 氏族分流(○○氏××流) 18

(ア)問題の所在 18

(イ)本件概念の性質 18

(ウ)造語策定 19

(エ)結論 20

(3)親族概念群 20

ア 親等 20

イ 親族の種類と範囲 20

(ア)序 21

(イ)実族概念群 22

(ウ)養子縁組概念群 23

(エ)婚姻概念群 24

(i)婚姻当事者 24

(ii)婚姻制度 25

(iii)婚姻形態に関する語 26

(iv)姻族 27

(4)続柄概念 28

ア 序 28

イ 全体出生順位続柄・性別出生順位続柄・続柄仮称 28

ウ 実族・擬制自然血族・非自然実族・養族の続柄 28

エ 姻族の続柄 32

オ 養族の続柄 33

カ 複合続柄 34

(5)承継概念群 35

ア 序 35

イ 始祖概念群 36

ウ 祭祀・相続概念 36

エ 氏主・族主・当主 38

オ 家系 39

カ 本分家概念群 40

(ア)序 40

(イ)小規模一族レベル 40

(ウ)氏族・大規模一族レベル 41

(i)序 41

(ii)嫡流 42

(iii)傍流 42

(iv)庶流 42

(v)支流 43

キ 家系の変動に関する概念群 43

    1. 論文概要
    2. 論文情報
    3. 論文へのアクセス
  1. 系統・親族用語
    1. (1)基本概念群
      1. ア 基準者
      2. イ 世代・世代数・尊属・卑属
      3. ウ 系統
      4. エ 親族
      5. オ 家
      6. カ 家族
      7. キ 氏族・一族・族閥複合体
        1. (ア)氏族
        2. (イ)一族
        3. (ウ)族閥複合体
      8. ク 邸宅
    2. (2)系統概念群
      1. ア 序
      2. イ 基準者相対概念(直系・傍系)
      3. ウ 実養別系統概念(実系・養系・疑似実系・非自然実系)
      4. エ 男女別系統概念(男系・女系・混系)
      5. オ 父母別系統概念
        1. (ア)序
        2. (イ)文化人類学用語の不採用
        3. (ウ)父系・母系・重系・父方・母方
      6. カ 共通祖先概念
      7. キ 氏族分流(○○氏××流)
        1. (ア)問題の所在
        2. (イ)本件概念の性質
        3. (ウ)造語策定
        4. (エ)結論
    3. (3)親族概念群
      1. ア 親等
      2. イ 親族の種類と範囲
        1. (ア)序
        2. (イ)実族概念群
        3. (ウ)養子縁組概念群
        4. (エ)婚姻概念群
          1. (i)婚姻当事者
          2. (ii)婚姻制度
          3. (iii)婚姻形態に関する語
          4. (iv)姻族
    4. (4)続柄概念
      1. ア 序
      2. イ 全体出生順位続柄・性別出生順位続柄・続柄仮称
      3. ウ 実族・擬制自然血族・非自然実族・養族の続柄
      4. エ 姻族の続柄
      5. オ 養族の続柄
      6. カ 複合続柄
    5. (5)承継概念群
      1. ア 序
      2. イ 始祖概念群
      3. ウ 祭祀・相続概念
      4. エ 氏主・族主・当主
      5. オ 家系
      6. カ 本分家概念群
        1. (ア)序
        2. (イ)小規模一族レベル
        3. (ウ)氏族・大規模一族レベル
          1. (i)序
          2. (ii)嫡流
          3. (iii)傍流
          4. (iv)庶流
          5. (v)支流
      7. キ 家系の変動に関する概念群

系統・親族用語

 ここでは、系図系譜研究の基本となる系統及び親族に関する用語を定義する。

 まず、その後の定義の前提となる基本概念群を定義し、それを元に派生概念群を定義する。

(1)基本概念群

ア 基準者

 系図譜は、①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で結合していると認められる③人々の④時系列に基づく⑤データであるところ(対象論参照。)、続柄とは、ある人から見た他の人との身分関係であって、相対的な概念であることから、基点となる人物を指す語が必要となる。また、次に定める「系統」も基点となる人物を指す語を論理的に必要とする。にもかかわらず、そのような概念を表す語は、伝統的系譜学では全く策定も仕様もされてこなかったようである。

 そこで、ある人から見た系統又は他の人の続柄を表すときに、基準となる当該「ある人」を「基準者」ということとする。いわゆる本人をいう。

 

基準者 ある人から見た系統又は他の人の続柄を表すときに、基準となる当該「ある人」

イ 世代・世代数・尊属・卑属

 民法の基本書では、基本的には、世代数とは、この1つの親子関係の単位をいい、「尊属」とは、自分よりも前の世代にある血族をいい、「卑属」とは、自分よりも後の世代にある血族をいうところ、「世代」については、尊属・卑属の定義に含まれており、その理解の前提となるものであるにもかかわらず、管見の限り、法律基本書や法律用語辞典ではほとんど定義がなされていないようである。「ひとつの親子関係」と定義するものもあるが、そうすると兄弟姉妹や従兄弟姉妹などの「同世代」と、尊属・卑属の定義の前提である「自分の世代」を観念できない。また、国語辞典における語義は、いずれも同じ年齢層とか、30年程度の期間など、尊属・卑属概念とは異なるものしか掲載されていないようであるから、独自に定義することにした

 思うに、「世代」とは、1つの親子関係を1単位とし、基準者の位置ポイントを0とした上で、祖先方向への移動を+1、子孫方向への移動を−1として表した相対的位置概念をいう。そして、基準者と相手方の位置ポイントが0である関係を「同世代」、正の数である関係を「尊属」、負の数である関係を「卑属」というものとすべきである。ただし、一部の祖先が重複するためにAからBに至る経路が複数存在し、経路によって位置ポイントが異なるケース、すなわち相手方が基準者の同世代でもあり尊属あるいは卑属でもあるケースも観念されるため、例外的に、相手方が基準者の同世代でもあり尊属でもある関係を「半尊属」といい、相手方が基準者の同世代でもあり卑属でもある関係を「半卑属」というものとする(いずれも造語)。

 

世代 1つの親子関係を1単位とし、基準者の位置ポイントを0とした上で、祖先方向への移動を+1、子孫方向への移動を−1として表した相対的位置概念
同世代 基準者と相手方の位置ポイントが0である関係。
尊属 基準者と相手方の位置ポイントが正の数である関係。
卑属 基準者と相手方の位置ポイントが負の数である関係。
半尊属 相手方が基準者の同世代でもあり尊属でもある関係。
半卑属 相手方が基準者の同世代でもあり卑属でもある関係。

 

ウ 系統

 「系統」の語は、従来の系図系譜研究では、実質的には「家系」あるいは「子孫」、「祖先の一部」のようなものを指す便利な言葉として慣用的に使われているが、それが単線的な一本の連鎖のみを指すのか、あるいは枝分かれ・派生した複線的な広がりを持つ集団をも含むのか、その範囲が判然としない。つまり、論者次第又は文脈次第で範囲が異なるから、一語一意の原則に反する。

 これに関連して、齋藤秀幸は、家系の判別方法や母系が重複した場合の数え方について悩み、とりあえず、同一人物に合流した場合には、それ以前を1系と数えるという基準を採用した。すなわち、「家系」や「母系」がどの範囲を指称するかを画定しないと、系統の数え方が定まらないという問題があり、これは「家系」や「母系」のみならず、「系統」の派生語全般に共通する。

 もちろん、「母系」などの派生語それぞれの特性に応じた定義を設定する必要があるし、派生語ごとに例外的取扱を定めることも可能ではあるものの、「母系」などの派生語の前提となり、かつ単独でも使用頻度の高い「系統」の語義を定めなくてよい理由はない。

 そこで、「系統」の語をどのように定義すべきかが問題となる。

 実際の用例を詳しく観察すると、次のような傾向が認められる。

 すなわち、「母系」の場合は通常、母親の方の尊属全般など複線的な範囲をイメージさせる。他方で、「家系」の場合は通常、基本的には単線的な範囲をイメージさせるし、「甲山乙太郎の男系祖先」といった場合も男性直系尊属という単線的な範囲をイメージさせる。また、「甲山乙太郎の系統」といった場合は、甲山乙太郎の直系卑属(のうち論者の内心で指定している一部)についての複線的な範囲と、実質的に甲山乙太郎家の「家系」という比較的単線的な範囲の2通りをイメージさせる。

 そうすると、「系統」自体もその派生語も、単線的な語義と複線的な語義の双方で使用されているといえる。

 基本を単線とすれば、複数であることを明示することによって複数の系統を使うことができるし、そのような取り扱いは一般的であるが、その逆、すなわち基本を複線として、明示したときのみ単線扱いすることは、全く尋常ではなく、極めて奇妙である。

 そうすると、「系統」を原則として単線的な範囲に限定した上で、複線的な範囲つまり系統の集合体を指称したい場合にはその旨明示する取り扱いを採用すれば、柔軟かつ精緻な運用をしやすいと考えられる。

 その上で、その単線的なイメージをどのように定義するかが問題となるところ、「系統」とは、親の下に子を横並びに図示することとした場合に、尊属方向又は卑属方向に1世代につき1名ずつ単線的に辿ることができる人々の連なりを(親の親の親…、又は、子の子の子…という方向に、1世代につき1名ずつ単線的な辿ることができる人々の連なり)いい、これを1本の系統と数えるものとするのが相当である。

 そして、運用上の注意としては、範囲を明確にするため、可能な限り、始点や終点となる基準者を明示すべきであり、より正確に表現できる用語がある場合は、できる限り「系統」の語の使用を避け、その表現を用いるべきであるし、複数の系統を指称する場合はその旨明示しなければならない(例えば、「甲山乙太郎の系統」ではなく「甲山乙太郎から甲山丙太郎までの系統」とか「甲山乙太郎の直系卑属全系統」など)。

 そのように定義すれば、齋藤秀幸の疑問に対しては、論者が認識した分岐ごとに系統の本数が増えていくということになる。

 

系統 親の下に子を横並びに図示することとした場合に、尊属方向又は卑属方向に1世代につき1名ずつ単線的に辿ることができる人々の連なり。

【運用上の注意】

可能な限り、始点と終点となる人物を明示する。

より正確に表現できる用語がある場合は、「系統」の語の使用を避け、その語を用いる。

複数の系統を指称する場合は、その旨明示する(例「複数の系統」「全系統」)。

 

エ 親族

 「親族」の語の定義をするにあたっては、親族の範囲をどのように画定し表現するかが問題となる。

 親族の範囲について、日本法では、親族の範囲を6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族としているところ(民法725条)、現在の日本社会においても、それを超える範囲の人々を遠戚といって事実上の親族として扱うことも少なくなく、また、過去あるいは別の地域における親族の範囲が必ずしも同条の定める範囲に合致するとは限らず、狭きに失するおそれがあるため、学際的通用力を考慮しても、同条の範囲を系図系譜学における親族の範囲として採用することはできない。

 他方で、一般的な国語辞典のように単に「血縁関係にある人々」としても誰を起点とするかという基準もなければ範囲にも際限が無いし、逆に血縁関係にはないが親族として扱われる姻族や養子縁組に基づく親族関係を排除することになる。

 系図系譜学では、既存の系図譜に記載された歴代親族構成情報の真偽の解明や、既存の系図譜の記載から漏れた人物の発見、ないし系図譜が現存していない人々を対象とする系図譜の作成などの研究も行うのであるから、客観的には、既存の系図譜に記載された人物に加えて、その親族とおぼしき人物も研究対象に含まれるべきである。そして、そのような研究では、研究者(系図譜作成者)が特定の氏族や家系に属すると認識した人々の中で、系図譜に記載しようと思料した人々を記載することになる。これは系図譜作成者の主観的範囲そのものである。

 そうすると、 「親族」については、

用語論において定義を策定され又は語義を確認された続柄用語によって基準者との続柄を表現することができる者と、

系図譜作成者が親族であると認識している範囲(普段から親戚だと思って関わっている範囲)内の者

系図譜作成者が系図譜に記載しようと思料し実際に記載した範囲(親戚だと思っている人の中で系図譜に書くことにした範囲)内の者

という3類型が考えられる。

 そこで、①を「客観的親族」とし、その範囲を「親族の客観的範囲」とし、②及び③を一括して「主観的親族」と総称し、その範囲を「親族の主観的範囲」とした上で、②を「認識範囲内の親族」、③を「系図譜記載範囲内の親族」と区別することが考えられる。

 そうすることにより、学問目的①に基づく「真の歴代親族構成情報を明らかにする」個別研究において、系図譜に記載された「系図譜記載範囲内の親族」を手がかりとしつつ「真の歴代親族構成情報」すなわち「客観的親族」を明らかにするとか、集めた研究資料から「真の歴代親族構成情報」すなわち「客観的親族」を明らかにするという捉え方をすることができるようになり、学問目的①と整合する。すなわち、学問目的①との関係では、客観的親族を明らかにすることが個別研究の目標であり、主観的親族は系図譜の記載範囲を分析するための概念として機能するから、「親族」を客観的親族と主観的親族に区別する実益がある。

 そして、これらを総称する語として「親族」の語を用いるべきである。

 

親族 下記①②③の総称
①客観的親族/親族の客観的範囲 用語論において定義を策定され又は語義を確認された続柄用語によって基準者との続柄を表現することができる者
②③主観的親族/親族の主観的範囲 下記②③の総称
 ②認識範囲内の親族 系図譜作成者が親族であると認識している範囲内の者
 ③系図譜記載範囲内の親族 系図譜作成者が系図譜に記載しようと思料し実際に記載した範囲内の者

オ 家

 「家」の語は、下記の通り、多義的な概念であるため、精緻化原則に基づき、峻別して用いる必要があるところ、「家系」「家族」「世帯」「邸宅」の各語を用いれば疑義を生じさせずに表現することができる。他方で、「○○家」という用法は、実質的には「○○という家系(祭祀継承系統)」を意味するものであって、「家系」という確立した語が存在する以上、「家系」の略記・換言に過ぎないとも解されるし、「邸宅」を意味する日常的用法と極めて紛らわしいから、「家」の語を独自の実体概念として扱う実益は乏しい。したがって、熟語でない「家」の語は、特定の苗字・家名を冠する祭祀継承系統を指称する場合の呼称として用いる接尾語として、「この○○という苗字の家系」というべきところを「○○家」と表現する場合の接尾辞的用法に限って許容すべきである。ただし、この「家」の定義は、「家系」「家系図」「家族」「借家」その他「家」の文字を含む熟語における「家」の文字には適用されず、この定義を代入することはできない。

 よって、「」は、①「○○家」の形で特定の苗字ないし家名を冠する祭祀継承系統を呼称する場合の接尾語として用い、実体概念としての「家」は用いず、②居住用建物には「邸宅」、③経済単位には「世帯」、④祭祀継承系統には「家系」、⑤近親者の共同体には「家族」の各語を用いるものとする。

 なお、⑤については、次セクションにおいてさらなる定義の精緻化をする。

 

「家」の語義 系図系譜学での使用上の注意
①家名の接尾辞としての家 専ら「家」の語を接尾辞として使用
② 居住用建物としての家 専ら「邸宅」の語を使用。
③ 経済単位(生計を一にする親族)としての家 専ら「世帯」の語を使用
④ 祭祀を継承する社会的実体としての家 専ら「家系」の語を使用
⑤ 近親者からなる共同体としての家 専ら「家族」の語を使用。オで精緻化

 

 なお、『歴史学事典10』には「イエ」として、「共同体の形成原理としてのイエ」という議論の中に、「経済的共同体としてのイエ」、「家父長制家族としてのイエ」、「軍事組織としてのイエ」、「宗教祭祀単位としてのイエ」などの類型があるというような説明をしているが、2(2)ウ(イ)で述べたとおり、カタカナ化することは口頭で紛らわしいのみならずイデオロギー的なニュアンスを持ちかねないという問題がある上、わざわざカタカナ化したのに複数の語義を持たせるという点で一語一意の原則にも反しており、少なくとも宗教祭祀単位については「家系」があるし、家父長制家族については「家父長制家族」というなり「家父長制家族団体」というなりすればよいし、経済的共同体あるいは課税単位については「世帯」という用語を用いて分別使用すればよいのであるから、学術用語として欠陥があると評せざるをえない。

 よって、「イエ」の語は、系図系譜学には用いないものとする。

 

家名の接尾辞

 

カ 家族

 「家族」の語からは、オで挙げた①経済単位(生計を一にする親族=「世帯」)、②祭祀単位(「家系」)、③近親者からなる共同体、の3つの観念が経験的に想起されるものの、生計を一にしない親族の一部(例えば、Aが両親BCとは別の場所で働いて一人暮らししているケースなど)も家族と捉えることはよくあるため、①の定義を採用できないし、祭祀単位の場合、十数代以前の故人も「家族」に含むことになるが一般的にそれは「祖先」「先祖」であるから、②の定義も採用することができない。したがって、残った③を採用した上で語義を明確化すべきである。

 ③の語義について辞典では、『有斐閣 法律用語辞典』は、家族を「①血縁と婚姻を基礎として共同生活を営む集団で、社会を構成する基本的な単位。②民法旧規定においては、一家の構成員で戸主でないもの。」と定義しつつ「家族共同体を法律的に一つの集団として取り扱う場合の呼称」として「家団」も定義しているが、両親とは別の場所で働いて一人暮らししている独身の子た単身赴任者等を除外しているため過少包摂の瑕疵ある定義である。『日本国語大辞典』は、「夫婦・親子を中核として、血縁・婚姻により結ばれた近親者を含む生活共同体。家属。うから。やから。」についても同様の瑕疵があるし、「血縁・婚姻」に限定していることから養子縁組のみで結ばれた人物を排除している点で過少包摂の瑕疵がある。他方、『大辞林』は、「夫婦とその血縁関係にある者を中心として構成される集団」と定義しており、血縁関係の範囲に関する文言がない。そのため、それら瑕疵を克服した定義を策定する必要がある。

 家族の範囲については、基準者にとって同居の曾祖父母は家族だが遠方の祖父母は家族とはいえないこともありえるため、親等で区切ることもまた難しく、同居・非同居の状況のほか主観的な要素が大きく、多様な家族観ないし生活状況を包含しつつ、親族の定義とは異なるものでなければならない。また、際限のないものであってはならないから、再従兄弟姉妹と同居しているなどの稀なケースについては、定義上包摂する必要はなく、個別の事情として斟酌すれば足りる。

 そこで、「家族」とは、基準者が家族であると認識している近親者から成る集団であって、同居又は生計の同一性を要しないものというべきである。

 

家族 基準者が家族であると認識している近親者から成る集団であって、同居又は生計の同一性を要しない。

 

キ 氏族・一族・族閥複合体

(ア)氏族

 「氏族」とは、同一の氏族名を名乗り、その氏族名を最初に名乗ることとなった人物の男系又は女系の卑属の集団をいうものとし、同一の氏族名を名乗ったとしても、異なる人物が名乗り始めた場合は異なる氏族として扱い、また、賜姓等により別の氏族名を名乗ることとなった場合は別の氏族として分立したものとして扱うものとする。男系と女系のいずれとするかは、地域の法令又は慣習によるものとする。

 なお、男系が異なるのに何らかの目的で複数の氏族が統合し、同族であると主張したというような議論があるから、それに基づいて上記定義に反対する立場が考えられる。しかし、それ自体は、不当接合した系図譜を作成したということに帰着するものであるし、単なる事例ないし傾向の説明に過ぎない。また、橘氏のような例があるとしても、氏族は少なくとも一般的には上記定義のようなものであるとみなされてきたものである。逆に、「氏族とは、本来は異なる人物の男系又は女系の卑属の親族集団が、政治的目的その他の理由から統合して擬似的に同じ祖先の卑属であるかのように偽装すること」などと定義したとすると、そのような偽装行為のない親族集団を指称する用語として「氏族」の語を使用できず、別の概念を策定しなければならないという問題が生じるが、むしろ偽装行為をした氏族について「統合氏族」あるいは「不当接合氏族」など修飾語を付した用語を策定する方が順当であるし、かつ、それで足りる。そうすると、上記定義を軸として実態との異同を分析することが議論を迷走させず精緻化するといえる。

(イ)一族

 多数の『○○一族』というタイトルの研究書群があることから、系図系譜研究においては重要な概念の一つであるといえる。

 その内容を帰納的に分析すると、基本的には、同祖同苗字である複数の家系群の中の総本家を中心として、その異なる苗字を称する縁戚にも言及しつつ一族史を叙述する内容である。また、一族は、基本的には氏族から苗字ごとに分立した家系が次第に子孫を増やして同じ苗字を称する集団として氏族のようになっていったものであり、さらには一族内からも異なる苗字の家系が分立していったこと、それに対して家系は最小単位といえることから、家系とも氏族とも異なる独自のレイヤーにある概念として研究の精緻化に資する実益が認められる。

 そこで、「一族」とは、同一人物の子孫であり、かつ、それと同一の苗字を称する複数の家系群をいうものとする。

(ウ)族閥複合体

 「氏族」及び「一族」の語は、伝統的系譜学ないしそれが強く依拠する歴史学においては、中心的な氏族や一族と、それとの間で、血縁的、政治的、軍事的又は経済的に密接な関係を維持し、かつ嫡流を補佐し又は支援する家系群からなる集団というような意味で用いられることもあるところ、これと「一族」を明確に区別する用語を定立しないと、そのような意味で「氏族」「一族」の語を拡張して流用する者が出てくることが懸念されるため、明確に別の用語を策定する高度の必要性が認められる。他方で、「一門」等の語は、日本特有の要素を持つ用語であるから、汎用的な用語を考案する必要がある。

 そこで、中核となる氏族又は一族との間で、血縁的、政治的、軍事的又は経済的に密接な関係を維持し、かつ嫡流を補佐し又は支援する従属的・補完的な氏族群・一族群・家系群により構成される集合体を「族閥複合体」というものとする(造語)。

 

氏族 同一の氏族名を名乗り、その氏族名を最初に名乗ることとなった人物の男系又は女系の卑属の集団
一族 同一人物の子孫であり、かつ、それと同一の苗字を称する複数の家系群
族閥複合体 中核となる氏族又は一族との間で、血縁的、政治的、軍事的又は経済的に密接な関係を維持し、かつ嫡流を補佐し又は支援する従属的・補完的な氏族群・一族群・家系群により構成される集合体

ク 邸宅

 居住用建物を「邸宅」といい、特定の居住者の苗字等を冠して「○○邸」と称することができる。居住用建物の意味での「家」の語は、引用及び書誌情報を除き、使用することができない。

(2)系統概念群

系統

├── 基準者相対概念

│   ├── 直系

│   │   ├── 直系尊属

│   │   └── 直系卑属

│   └── 傍系

│         ├── 傍系尊属

│         ├── 傍系卑属

│         └── 傍系同世代

├── 男女別概念

│   ├── 男系

│   ├── 女系

│   └── 混系

├── 父母別概念

│   ├── 父系

│   ├── 母系

│   ├── 重系

│   ├── 父方

│   └── 母方

└──  氏族分流

ア 序

 ここでは、系統から派生した概念群を整理し定義する。

 なお、この系統概念群に関連した先行研究として、青山幹哉は、渡邊欣雄「出自・出自集団」石川栄吉・梅棹忠夫ほか編『文化人類学事典』弘文堂(1987年)等に基づいて、

「出自とは、特定の祖先からたどることのできる親子関係の連鎖によって、個人を特定の集団またはカテゴリーに所属させる原則であり、財産、姓、地位、称号、居住権、集団成員権などの任意の権利・義務を世代を超えて伝達する様式とかかわるものである。これらの伝達を一方の親すなわち一方の性によって限定する様式を単系といい、父親を通じて出自をたどる様式を父系又は男系、母親を通じてたどる様式を母系又は女系という。また、父親からは父系出自をたどり、母親から母系出自をたどって、双方の集団に両属する様式を二重単系といい、父母の性にこだわらない様式や選択可能な様式を非単系出自あるいは共系出自という。」

というように「出自」「父系」「男系」「母系」「女系」「二重単系」「非単系出自」「共系出自」の語を定義している

 しかし、「出自」の語は、系図系譜研究において、「基準者の実の直系尊属が所属していた氏族・一族・家系」を指す慣行があるから、「〜させる原則」という定義と適合しない。また、「父系」と「男系」、「母系」と「女系」をそれぞれ同義語にしているところ、それぞれ通常は別の概念を意味するものであって、それに沿った別々の定義をすることにより概念を精緻化できるのにもかかわらず、そうせずにわざわざ同義語とすることによって議論の精緻化に逆行している。さらに、「男系」は通常「基準者の男性のみの実の直系尊卑属で構成される系統」という趣旨の語として普及しているにもかかわらず、あえて「父親を通じて出自を辿る」と定義し、この文言によれば、父親の母親の先祖も辿る対象となることから、「男系」の語が通常の語義とあまりにも乖離している。確かに独自の定義を策定することがありえるにしても、この場合においては、単に「父系」の語のみを用いればよいのに、わざわざ通常の語義との乖離が大きい「男系」を同義語として並記しているのであるから、相当性を欠く。

 したがって、この青山幹哉ないし文化人類学事典の定義は、定義に用いる文言の選択が異常で、本質的属性と一義明確性が欠け、過度広汎性が認められ、判断基準たりえず、精緻化原則にも違反するため、到底採用することができない。

イ 基準者相対概念(直系・傍系)

 系図譜関連用語で世間的に最も誤用されているのは直系・傍系の語であり、しばしば嫡流・傍流・本家・分家の意味で誤用されている。しかし、直系・傍系の語は、民法、戸籍法その他の法令で用いられる法律用語でもあり、戸籍謄本や除籍謄本等の戸籍史料を取得する際に誤用すると役所の戸籍担当者と話が通じないという実務上の支障が生じるし、学問上これらの概念を峻別すれば思考が整理され研究の精度が向上しうるという多大な実益がある。さすがに入門者でなければ誤用しないようであるが、だからといって系図系譜研究上の重要用語について用語論において語義を確認せずにいては、学問分野としての不備であり、入門者が誤用しかねないため、言及する必要がある。

 直系・傍系の関係は、基準者との続柄によって定まるのに対し、嫡流・庶流等は、各氏族・家系群の内部で定めた家系間の社会的関係によって定まる。例えば、A家から分家Bが立てられ、さらに分家Bから分家Cが立てられた場合、分家Bから見たA家は嫡流・宗家であるのに対し、分家Cから見た分家Bは本家、A家は嫡流・宗家・大本家となる。

 「直系」とは、相手方が基準者と同一の系統に属することをいう。要するに、基準者の親の親の親…、又は、子の子の子…である者であり、別の言い方をすれば、基準者と相手方のうち、一方が他方の子孫に当たる関係にある者ということになるが、直系・傍系が系統の派生概念であることは明らかであり、そのように定義するには、定義文中に「系統」の語を用いる必要があるため、上記のような定義文となった。

 「傍系」とは、基準者の兄弟姉妹並びにその直系卑属及び基準者の直系尊属の兄弟姉妹並びにその直系卑属のうち、基準者の直系でない者をいう。定義文中の「直系」の定義に「系統」の語が含まれるから、「傍系」も系統の派生概念ということになる。この語について、家族法(親族法)の基本書には、「対象となる2人の血族が共通の始祖の子孫にあたる関係」、あるいは「同一の祖先から分岐・直下した形で繋がる関係」という定義をするものもあるが、「始祖」の語は氏祖や家祖を指すかのような字面であって紛らわしく、直近の祖先に限定されていないし、直系関係にある者を除外できていないため、家族法(親族法)の基本書の傍系の定義は妥当ではない。

 「直系尊属」とは、直系のうち尊属である者をいう。

 「直系卑属」とは、直系のうち卑属である者をいう。

 「傍系尊属」とは、傍系のうち尊属である者をいう。

 「傍系卑属」とは、傍系のうち卑属である者をいう。

 「傍系同世代」とは、傍系のうち同世代である者をいう。

 なお、直系同世代は存在しえないため、用語として定立しない。

 

基準者相対概念

直系 基準者と相手方が同一の系統に属すること
傍系 基準者の兄弟姉妹並びにその直系卑属及び基準者の直系尊属の兄弟姉妹並びにその直系卑属のうち、基準者の直系でない者
直系尊属 直系のうち尊属である者
直系卑属 直系のうち卑属である者
傍系尊属 傍系のうち尊属である者
傍系卑属 傍系のうち卑属である者
傍系同世代 傍系のうち同世代である者

 

ウ 実養別系統概念(実系・養系・疑似実系・非自然実系)

 基準者の実族で構成される系統を「実系」という(実族について(3)イ(イ)で詳述)

 基準者の養子の卑属及び養親の尊属の系統を「養系」とし、基準者の擬制自然血族の系統を「疑似実系」とし、基準者の非自然血族実族の系統を「非自然実系」ということとする(擬制自然血族について(3)イ(イ)で詳述)(いずれも造語)。ただし、これら「疑似実系」及び「非自然実系」の語に「実系」の定義を代入することはできない。

 

実養別系統概念

実系 基準者の実族で構成される系統
養系 基準者の養子の卑属及び養親の尊属の系統
疑似実系 基準者の擬制自然血族の系統
非自然実系 基準者の非自然血族実族の系統

 

エ 男女別系統概念(男系・女系・混系)

 世間的には、男系以外の尊属によって構成される血統を指して女系といったり、男系と父系、女系と母系を混用している。国語辞典ですら、男系と女系で非対称な語義を定めているものが散見される。しかし、字面的に男系と対になるのは女系の語であり、かつ、女系は男系同様に、遺伝的な基準においては数多ある系統の中でたった1つしかない特殊な系統であり、字義が異なるのだから、字面的に母方の直系尊属全系統を意味しうる「母系」とはその範囲を異にすべきである。これは男系についても同様のことがいえる。そこで、女系の定義を男系の上記の定義と対称的なものとし、他の系統用語と峻別する高度の必要性と実益がある。

 そこでまず、遺伝的基準に基づき、「男系」を基準者の男性のみの実の直系尊卑属で構成される系統とし、「女系」を基準者の女性のみの実の直系尊卑属で構成される系統とする。ただし、基準者が女性である場合には、男系は、その実父以前の男性直系尊属のみで構成される血統、基準者が男性である場合には、女系は、その実母以前の女性直系尊属のみで構成される血統をに限定される。すなわち、男系は、突然変異を除くY染色体ハプログループで辿れる血統(基準者が女性である場合には、その実父について)であり、女系は、突然変異を除くミトコンドリア・ハプログループで辿れる血統(基準者が男性である場合には、その実母について)である。

 そうすると、男系でも女系でもない系統を指す用語が必要となるが、これが存在しないため、男湯・女湯・混浴に倣って、遺伝的見地から、基準者の全ての実系から男系と女系を控除した系統を「混系」と呼ぶことにする(造語)。混系については、基準者の性別を問わない。

 なお、オ(イ)で述べるとおり、「混系」と似た言葉に文化人類学用語の社会構造の類型を意味する「双系」や「非単系」があるが、遺伝的な系統である「混系」とは語義が全く異なる上、系図系譜学では基本的に文化人類学用語を使用しないため、混同しないように注意しなければならない。

 また、ここでは、養子を基準者として養親の男系・女系・混系を観念する実益が観念できないことから、実族のみを想定して定義した。なぜなら、養親の男系・女系・混系を扱いたいなら、当該養親を基準者とすれば足りるし、度重なる養子縁組による祭祀承継者としての歴代男性を扱いたいなら、あくまで遺伝的基準に基づく「男系」ではなく、「嫡流」という祭祀継承の系統として捉えれば足りるためである。その意味で、「男系継承」という用語は、養子なしの男系による継承があった場合以外は、使用しえない。

 太田亮は、「血系」を「男系の祖先」と定義しているが、「男系」という、字面からも意味内容を把握しやすく、普及している語があるのに、わざわざ「血系」という、字面からその意味内容を想起できず(血縁、血筋あるいは血統の意味を想起する)、普及もしていない別の語を用いる理由がないから、この定義は採用することができない。

 

男女別系統概念

男系 遺伝的に、基準者の男性のみの実の直系尊卑属のみで構成される系統。基準者が女性である場合には、その実父以前の男性直系尊属のみで構成される血統。
女系 遺伝的に、基準者の女性のみの実の直系尊卑属のみで構成される系統。基準者が男性である場合には、その実母以前の女性直系尊属のみで構成される血統。
混系 基準者の全ての実系から男系と女系を控除した系統。

オ 父母別系統概念

(ア)序

 「父系」「母系」「父方」「母方」の語義も、伝統的系譜学においては整理されてきたとは言いがたいため(ウを参照)、改めて定義する必要がある。

(イ)文化人類学用語の不採用

 文化人類学用語にも「出自」「父系」「母系」などの語があるため、それらが参考になるかが問題となる。

 文化人類学においては、集団成員資格・財産・地位の伝達・継承制度を「出自」あるいは「出自集団」といい、社会的に承認された親族関係を実態とみなす社会構築主義に基づき、これを社会構造の根幹と位置づけて解明することが主要な研究目的の1つであって、遺伝的血縁関係はあくまで社会的承認の一要素に過ぎないようである

 これに対し、系図系譜学においては、継承制度は、真の歴代親族構成情報とは別物であり、事象研究の論点の1つにはなるものの、あくまで論点の1つに過ぎず、事実解明のために継承関係を分析することはあるが、これもあくまで手段の1つに過ぎない。むしろ、遺伝的血縁関係の有無を確定することこそが中核的学問目的の重要な要素であるし、婚姻・養子縁組等の法律上又は慣習上の関係と遺伝的事実を峻別する。

 そうすると、出自集団、父系制・母系制などの文化人類学の概念は、系図系譜学の学問目的ないし方法論とは根本的に相容れない思想を前提として、社会文化的意味・ニュアンスが付加された用語が策定・運用されてきたものといえる。

 学際的学問分野である系図系譜学としては、特に事象研究で知見を参考にしうる文化人類学と用語を共有すれば文化人類学との接続が容易になるものの、遺伝学や遺伝型疾病の研究との用語の共有の高度の必要性がある。また、文化人類学が例えば「父方承制」とか「母方主義親族制」などという用語を使用しているならともかく、父系制・母系制の語は、系図系譜学の父系・母系の語と極めて紛らわしく、直感的にも理解しにくい。さらに、系図系譜学の直系・傍系・男系・女系という系統概念の接尾辞との統一性の観点からは、父方・母方では父系・母系の語を代替できない。しかも、文化人類学では、男系・女系と父系・母系は同義である上、父系制・母系制の語は、「血統を母方または父方の一方だけたどって他方を血族とみなさない」すなわち他方の遺伝的事実を無視する概念であるというのであるから、妥協することは困難といわざるをえない。

 このように、系図系譜学においては、男系と父系、女系と母系を遺伝的基準で把握し、それぞれ峻別して用いる必要があるのに、文化人類学においては、それぞれが同義とされた上で社会的基準で把握・定義している以上、これを系図系譜学に流用すれば、事実認識に多大な混乱を招くリスクが極めて高いといわざるをえない。

 よって、系図系譜学においては、文化人類学の概念ないし語義を基本的に採用しない。そのため、系図系譜学における「出自」、「父系」や「母系」などの語義は、文化人類学とは無関係である。

 なお、親族意識・祭祀承継・婚姻形態などについての文化人類学の実証的知見は、系図系譜研究においても参考になりうる部分もあるものの、参考にする場合も都度、系図系譜学用語に言い換えるなり、系図系譜学に適合する語を策定する必要があり、鵜呑み・受け売り・鸚鵡返しは厳に慎むべきであり、系図系譜学の用語論を前提としない借用・流用をすべきではない。

(ウ)父系・母系・重系・父方・母方

 父系・母系と男系・女系がしばしば混同されてきたことに鑑みると、父系・母系の語には男系・女系とは別の定義を明確に策定する必要がある。

 そこで、系図系譜学においては、遺伝的見地から、基準者の実父とその実の直系尊属全系統を「父系」といい、基準者の実母のその実の直系尊属全系統を「母系」というものとする。すなわち、男系・女系が男性のみ又は女性のみで構成される単一の系統を指すのに対し、父系・母系を基準者の父母を軸とした複数の系統の総称として位置づけることにする。

 その上で、父系尊属と母系尊属をそれぞれ遡ると、父系と母系の系統が途中で合流して、父系であり母系でもある実の直系尊属が出現することがある。例えば、基準者の両親がいとこ同士であった場合、祖父母の1組が基準者の父系にも母系にも該当する。この父系と母系に重複して該当する直系尊属を指す用語についても、他の尊属系統と区分して捉える研究上の実益を観念しうるにもかかわらず、これが存在しない。そこで、基準者の直系尊属全系統のうち父系かつ母系である全系統を「重系」と呼ぶことにする。男系・女系・混系と同様の理由から、実族のみを想定して定義した(造語)。

 「父方」「母方」については、それぞれ「父の方の」「母の方の」という、通常の語義で用いれば足りるものと解する。ただし、「父方の先祖」「母方の先祖」という用法は、「父系」「母系」と同義であるから、その用法を用いるべきではない。また、父方であり母方でもある者を観念しうるところ、これを「重系」に合わせて「重方」というと人名の「しげかた」と紛らわしいため、「父母方」というものとする(造語)。

 

父母別系統概念

父系 基準者の実父とその実の直系尊属全系統。
母系 基準者の実母のその実の直系尊属全系統。
重系 基準者の実の直系尊属全系統のうち父系かつ母系である系統。
父方 父の方の
母方 母の方の
父母方 父方でもあり母方でもある

カ 共通祖先概念

  例えば、AとBがいとこ同士で結婚した場合、Aの祖父母CDEFとBの祖父母EFGHのうち、EFはAとBに共通する祖先である。

 これを指称することも研究実務上ありえるが、それを表す概念が存在しないから、これを策定することする。

 そこで、2人の基準者に共通する祖先を「共通祖先」といい、そのうち基準者に最も近い共通祖先を「直近共通祖先」というものとする(いずれも造語)。

 なお、Xの父母YZを基準者とした場合のYZの共通祖先と、Xの重系とが全く同じ範囲を指すものの、共通祖先概念は必ずしもXの父母のみを基準者とするものではないから、重系及び共通祖先それぞれに存在意義がある。

 

共通祖先概念

共通祖先 2人の基準者に共通する祖先
直近共通祖先 基準者に最も近い共通祖先

キ 氏族分流(○○氏××流)

(ア)問題の所在

 「藤原北家魚名流」や「桓武平氏高望流」など「○○氏××流」という氏族に関する分類のようなものは、姓氏家系に関する事典類や系図系譜研究、系図譜(集)にしばしば登場し、家祖その他の人物がどの系統に属するかを端的に表示するものであるため重要であるが、これを指称する語彙・用語が存在しない。そこで、この概念(以下「本件概念」という。)を何と呼称すべきかが問題となる。

(イ)本件概念の性質

 本件概念は、運用上は、日本の家系ないし苗字の紹介において頻用されているが、家系・苗字の分類とすると、家祖以降に養子縁組による男系の変更があることと、日本の氏族が男系祖先を基準とするものであることが相矛盾することになる。しかし、本件概念が、①家系に関する情報であるとしても、家祖(ないし男系変更前まで)の男系の細分類を表示したものであり、②個々人に関する情報であるとすれば、各人の男系の細分類を表示したものであると解することができ、整合的に説明することができ、①も結局は②の一態様ないし情報の利用形態の一つに過ぎないともいえる。したがって、いずれの解釈であっても、本件概念は、氏族の男系に関する分類ということになる。

 もちろん、本姓の運用実態が時期によって上記基準と異なるようになったとか、個別の事例において本姓の変更手続があったなどの人為的変更による改氏その他の事由、虚偽や誤解に基づいて系図譜上に「○○氏××流」と記載されたもケースも想定されるものの、研究の精度の向上のためには、それらと講学上のの分類としての「○○氏××流」とを峻別する高度の必要性が認められる。

 他方、用語論においては、特定の地域に限定した概念を定めることは好ましくなく、地域によっては女系を軸とした氏族もありえることから、男系又は女系いずれかを軸とする分類とするべきである。

 そこで、実族の分類としての本件概念を氏族内の男系又は女系の分岐の分類と定義した上で、本件概念を指称する造語を策定することとする。

(ウ)造語策定

 本件概念を指称する候補語としては、「氏族系統」や「氏族流派」、「氏族流統」、「流系」、「氏系」、「流称」、「氏族分流」が考えられる。

 「氏族系統」は、「氏族の系統」という意味がそのまま字面に出ていて誤読の余地がほぼなく、氏族の大枠とも混同されにくいから意味は正確に伝わるし、「○○氏××流」を「氏族系統」と呼ぶことに違和感も生じないものの、「系統」の定義とズレが大きくなりかねない。本件概念は、「系統」の派生語ではなく、氏族内の下位区分を指す別概念であって、別の対象を同じ「系統」の語で表すことになり、一語一意・精緻化原則に違反する。

 「氏族流派」は、「○○氏××流」の「流」を「流派」として明示的に拾える点で意味の直伝性は高いが、「流派」という語は、華道・茶道・武道・芸能などの技芸伝承集団を指す語として極めて強く定着しているし、「派」は思想・学派・党派の語感も強いため、血統を指す用語として採用すると、技芸等の流派を強く想起させ混同される懸念があり、さらには氏族の職能技芸の継承を指す概念に流用する論者が出てきて定義が崩壊するリスクも誘発するから、採用できない。

 「氏族流統」は、「流」と「統」の組み合わせで、血統的な連なりを表す語としては成立しうるが、「流統」という熟語は、初見で意味を看取しにくい。

 「流系」は「○○流」の「流」を活かせる利点があるが、「流系」という語形が直感的に意味を喚起しにくく、河川のイメージを生じさせやすい。

 「氏系」は、「家系」とパラレルな字面ではあるものの、血統分岐というより、藤原氏や源氏という大枠を指称しうるニュアンスがあるため、混用されるリスクが懸念される。

 「流称」は、呼称行為に着目した語であり、血統という静的・固定的・不変的状態を指す語ではないため、採用できない。

 「氏族分流」は、「分流」が本流から分かれた流れという意味で、「○○氏」という大きな氏族から分かれた「××流」という下位系統を指す本件概念の運用実態に対応するし、「氏族内の血統分岐」という意味が直感的に伝わり、技芸や正統性との混同が生じず、「系統」の定義と抵触せず、「流」の文字も含むから、上記各候補の中で最も優れていると解される。

 なお、「分流」は「本流があって初めて分流がある」という相対概念のニュアンス、つまり氏族の嫡流を念頭に置いた語感があるため、嫡流自体を「氏族分流」と呼べるかという疑問が生じうる。しかし、氏族の嫡流は特定の系統が世襲していたものではないようだし、「分流」には同義語がいくつもあって代替性が高いことから、「分流」の定義を本流との相対概念ではなく卑属系統群の区分概念として定立すれば、その疑問は解消される(本家・分家との非対称性については、パラレルな概念を対称な語で定義しなければならないわけではないし、氏族のは場合は、氏長者の地位が必ずしも世襲ではなかったようだし、本流というより嫡流という方が普通である)。

(エ)結論

 よって、本件概念すなわち氏族内の男系又は女系の分岐の分類(いわゆる「○○氏××流」)を「氏族分流」ということとする。

 

氏族分流 氏族内の男系又は女系分岐の分類。いわゆる「○○氏××流」。

(3)親族概念群

ア 親等

 「親等」とは、親族関係の近さを表す単位である

 直系尊属の親等は、始点と終点の間の世代数を数え、傍系血族の親等は、始点と終点の直近の共通の先祖まで始点から遡ってから下って終点に至るまでの世代数で数えるが、配偶者の親等は配偶者を起点とし、配偶者には親等がない(民法726条)

 

親等 親族関係の近さを表す単位

 

イ 親族の種類と範囲

親族

├── 実族

│      ├── 自然血族たる実族

│      └── 自然血族でない実族

├── 擬制自然血族

├── 養族

│      ├── 法定血族

│      └── 事実養族

└── 姻族

    ├── 法定姻族

    ├── 事実姻族

    ├── 継親子関係

    └── 嫡母庶子関係

 

(ア)序

 系図系譜学は、「真の歴代親族構成情報を明らかにすること」を中核的目的としていることから、実態的な親族関係ないし血縁関係を精確に把握する必要がある。

 ところが、日本の民法では、「自然血族」は、基準者との間に法律上遺伝的な血のつながりがあるとされる者をいうところ、自然血族には、現に遺伝的な血縁関係のある親族のみならず、代理母出産のケース、性別変更や不倫などの事情により夫以外との間で生まれた子について嫡出推定によって生じた父子関係のケース、藁の上から養子のように他人の子を実子として届出けられたケース、事実に反して夫の実子として届けられたケースなど、法令によって自然血族に擬制されているものの遺伝的な血のつながりはないものも含まれるし、逆に父Aが非嫡出子Bを認知していない場合などは法律上は実親子関係にはないこととされるため、「自然血族」の語をそのまま用いると、そのような未認知親子関係まで含まれて精緻な議論が阻害されることになる。これは、母子の自然血族関係は、分娩ないし懐胎・出産の事実によって確定するのに対し、父子関係は、基本的には母子関係に基づいて父子関係が決定される構造になっているためである(嫡出推定。民法772条)。これは、速やかに父子関係を確定することによって、子に安定した養育環境を与え、子の福祉を図る趣旨の法制度であるのに対し、系図系譜学では、遺伝的血縁関係にあるか否かが極めて重要になってくるため、そのような制度を採用することはできない。

 また、養親とその親族からみた養子の実家の親族、あるいはその逆の、養子の実家の親族からみた養親とその親族を指す語が存在しない。さらに、「姻族」は、法令用語では、法律婚をした配偶者の親族を指すが、時期や地域によっては法律婚制度がないケースもある。そのため、法令用語を借用すると、正確な実態を表現することができない。

 そこで、正確に実態的な親族関係ないし血縁関係を表現できるよう、独自に造語したり、再定義したりする必要がある。

 (イ)以下のように親族の概念を実態に即して区分することにより、学問目的①にいう「真の歴代親族構成情報」も単なる親族関係の存否にとどまらず、実際にはどの区分に該当するのかを確定することを目指すものである。例えば、戸籍類を含む系図譜に実親子関係として記載されているからといっても、遺伝的血縁関係がある親族すなわち実族とは限らず、擬制自然血族かもしれないという可能性を念頭に研究し、擬制自然血族であることが判明したならば、その旨結論において明示することになる。

 

自然血族 基準者との間に法律上遺伝的な血のつながりがあるとされる者

 

(イ)実族概念群

 まず、基準者との間に現に遺伝的な血縁関係のある者の総称を「実族」といい、そのうち、基準者との間に現に遺伝的な血縁関係があり、かつ自然血族である者を「自然血族実族」といい、未認知親子関係などのように基準者の自然血族ではないが実族ではある者については、「自然血族でない実族」すなわち「非自然血族実族」というものとする(いずれも造語)。さらに、基準者の実族とされているが実族でない疑いがある者については、現に遺伝的な血のつながりがないと判明するまでは、実族として推定するものとし、これを「推定実族」ということとする(造語)。

 また、基準者との間で法的には自然血族に擬制されているものの遺伝的な血のつながりが現にない者を「擬制自然血族」というものとする(造語)。

 系図系譜学においては、「実親子関係」は、現に遺伝的な血縁関係がある親と子をいうものとし、これには「実親」・「実父」・「実母」・「実子」・「実親子」その他「実の○○」(○○には続柄が入る)が含まれる。また、「擬制親子関係」は、擬制自然血族たる親と子をいうものとし、「擬制親」・「擬制父」・「擬制母」・「擬制子」・「擬制親子」その他「擬制○○」(○○には続柄が入る)が含まれるものとする(造語)。

 「出自」とは、基準者の実の直系尊属が所属していた氏族・一族・家系をいう。これは、「甲野A太郎の出自は何かが問題となる」というような問題提起をしている段階で使うことが多い用語であるから、定義を策定する高度の必要性が認められる。「乙山氏の出自」のように家系や一族を基準者に位置づけるケースもあるが、これも実質的には乙山氏の始祖B太郎又は乙山氏の中で判明している最古人物C三郎が基準者となるものと解されるから、上記定義で処理できる。なお、文化人類学用語にも「出自」や「出自集団」などがあるが、(2)オ(イ)で述べたとおり、全く無関係であり、むしろその語義を介在することはできない。また、伝統的系譜学研究では、「祖系」の語が使用されることがあるが、定義が見当たらず、字面と用法から「祖先の系統」の略語のように解される。そうだとすれば「出自」の類語といえるものの、「出自」は、慣習的語義が概ね上記定義と合致している上、「祖系」よりも強固に定着している。そのため、「祖系」の語は採用しない。

 なお、氏族等に限らない祖先を指称する場合は、男系・女系・混系・父系・母系・重系・直系の各尊属(全系統)によってすれば足りる。

 

実族 基準者との間に現に遺伝的な血縁関係がある者
自然血族実族 基準者との間に現に遺伝的な血縁関係があり、かつ自然血族である者
非自然血族実族 基準者の自然血族ではないが実族ではある者
推定実族 基準者の実族とされているが実族でない疑いがある者
擬制自然血族 基準者との間で法的には自然血族に擬制されているものの現に遺伝的な血縁関係がない者
実親子関係 現に遺伝的な血縁関係がある親と子
擬制親子関係 擬制自然血族たる親と子
出自 基準者の実の直系尊属が所属していた氏族・一族・家系
(ウ)養子縁組概念群

 「法定血族」とは、養子縁組などによって基準者との間に法的に血縁関係があると擬制された者をいうところ、時期や地域によっては必ずしも法令に基づいて養子縁組がなされたとは限らず、慣習などに基づく養子縁組もありえることから、養子縁組全般について法的擬制を要件とすることは系図系譜学の議論を阻害する。 そのため、法令に基づくか否かにかかわらず、養子縁組によって基準者との間に親族関係が生じた者、具体的には、養親とその親族を基準者とした養子の実家の親族、及び養子の実家の親族を基準者とした養親とその親族を「養族」とし、法定血族はその一類型とすべきである。また、法定血族の対概念として、法令に基づかない養子縁組によって基準者との間に親族関係があるとされた者が観念されるから、これを「事実養族」というものとする(造語)。

 そして、「養家」とは、養子縁組により親となった者の属する家系のことをいい、「実方」とは、養子を基準者としたときの、養子の実の親族養方」とは、養子を基準者としたときの、養親と養親の親族(養子を除く)をいう。養子縁組の身分別に、親族間で縁組する親族養子と(孫養子、兄弟姉妹養子、従兄弟養子、直系卑属養子など)、親族でない者同士で縁組する非親族養子、養子縁組の目的別に、実子がいないために祭祀を継承させる目的でする家のための養子(祭祀養子)、相続税対策として相続人を増やす目的でする節税養子・税金養子、実子が女子しかいない父母が娘の配偶者と縁組する婿養子、配偶者の連れ子と縁組する連れ子養子、兵役を逃れる目的でする兵役養子、経営者が従業員を事業承継者とする目的でする事業養子、伝統芸能の世界で師匠が弟子を養子にする芸娼妓養子、情交関係のある相手方とする妾養子、婚姻できないため同性カップル同士で縁組みする同性愛養子などがある

 夫婦共同縁組は、夫婦が縁組みをすることをいうものであるが、これにはAB夫妻が養親となり甲を養子とするケースと、C(ないしD夫妻)が養親となり乙丙夫妻が養子となるケースの両方がある。日本の民法では、従来は夫婦が共同して縁組をしなければならないとされていたが、養子共同型については1987年の民法改正により単独で縁組できるようになったものの、類型論としては系図系譜学の参考にしうる。そこで、夫婦がともに養親となることを「夫婦養親」、夫婦がともに養子となることを「夫婦養子」というものとする

 「縁組意思」とは、社会観念上親子であると認められる関係の設定を欲する効果意思をいう(実質的意思説)。縁組意思は、本来的には養子縁組の成否が法的に争われた場合に争点となりうるものであるが、系図系譜学では、縁組の成否というよりも、研究対象となる人物の縁組に関して考慮すべき主観的要素として位置づける。

 「転縁組」とは、既に養子となっている者が、さらに別の者の養子となることをいう

 

法定血族 養子縁組などによって基準者との間に法的に血縁関係があると擬制された者
養族 養子縁組によって基準者との間に親族関係が生じた者。具体的には、

①養親とその親族を基準者とした養子の実家の親族

②養子の実家の親族を基準者とした養親とその親族

事実養族 法令に基づかない養子縁組によって基準者との間に親族関係があるとされた者
養家 養子縁組により親となった者の属する家系
実方 養子を基準者としたときの、その親族。
養方 養子を基準者としたときの、養親と養親の親族(養子を除く)。
夫婦養親 夫婦がともに養親となること。
夫婦養子 夫婦がともに養子となること。
縁組意思 社会観念上親子であると認められる関係の設定を欲する効果意思。
転縁組 既に養子となっている者が、さらに別の者の養子となること。

 

(エ)婚姻概念群
(i)婚姻当事者

 「婚姻当事者」とは、婚姻関係にある者をいう。

 「配偶者」とは、婚姻当事者の一方からみた他方をいう

 男性である婚姻当事者を夫、女性である婚姻当事者を妻という。ただし、男性君主の妻については、皇后・王妃など該当する用語を用いるものとする。女性君主の夫は、皇配あるいは王配という

 

婚姻当事者 婚姻関係にある者。
配偶者 婚姻当事者の一方からみた他方。

 

(ii)婚姻制度

 婚姻には、法律婚と事実婚、儀礼婚などがある

 「法律婚」は、国法の定めに基づく方式によって成立する婚姻関係をいう。法律婚のうち、届出によるものを届出婚といい(届出婚主義)、身分吏の面前で婚姻意思を確認する儀式(結婚式)を行ったこと(儀式婚、民事婚)をもって法律上の婚姻の成立を認める国もある

 「事実婚」とは、社会観念上夫婦となる意思(婚姻意思)をもって夫婦共同生活を送っているが、婚姻の届け出を欠くために、法律婚とは認められない男女の関係をいう。宗教的儀式を行ったこと(宗教婚)や社会習俗上の婚姻の儀式(結婚式)を行うケースもある。事実婚は、内縁ともいい、当事者の婚姻意思と共同生活の事実が存在すれば成立する(準婚理論。事実婚が婚姻意思を要件とするのは、恋愛関係や友人関係における同棲などと区別するためと解される)。

 「婚姻意思」とは、「社会通念上一般に夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」(実質的意思説)、「婚姻の届け出をする意思」(形式的意思説)、「民法の定める定型としての婚姻意思」(法律的定型説)などがあるが、系図系譜学においては、法律婚制度のない時代・地域における統一的基準たりえる定義として、実質的意思説を採用すべきである。実質的意思説であれば、法律婚制度のある国あるいはその変遷を踏まえた時代性を考慮しても、法律婚のない時代・地域における慣習のみならず各国・各時代の婚姻意思の判断基準をもすべてこれに包含することができるし、少なくとも日本の判例実務において採用されているためである。婚姻意思は、本来的には法律婚の成否が争われた場合に争点となりうるものであるが、系図系譜学では、婚姻の成否というよりも、研究対象となる人物の婚姻に関して考慮すべき主観的要素として位置づける。例えば、国籍や滞在許可証の取得のために婚姻を偽装するようなケースでは、婚姻意思を欠く「仮装婚」であるとされる

 

法律婚 国法の定めに基づく方式によって成立する婚姻関係。
事実婚 社会観念上夫婦となる意思をもって夫婦共同生活を送っているが、婚姻の届け出を欠くために、法律婚とは認められない男女の関係。
婚姻意思 社会通念上一般に夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思。

 

(iii)婚姻形態に関する語

 婚姻形態に関する語としては他に、「婿入り」「嫁入り」「嫁ぐ」「娶る」「婿取り」「嫁取り」「結婚する」があるところ、「婿入り」と「嫁入り」は、対称的な対概念であるし、「結婚する」はその上位概念である。他方、「嫁ぐ」の語は、単に男性婚姻当事者と結婚することのみならず、女性婚姻当事者が婚姻に伴って苗字を変更することをも指す多義語として強固に定着しており、系図譜にしばしば記載されている「嫁す」という文言と相まって、論者が無意識に混用するリスクが高いし、読者にとっても無用な混乱を生じさせかねないし、「嫁入り」ないし「結婚する」といえば足りる。そのため、引用を除いて、「嫁ぐ」の語は使用するべきではない。

 同様に「娶る」も、男性婚姻当事者の視点から女性婚姻当事者が婚姻に伴って苗字を変更することを指すだけでなく、女性婚姻当事者の苗字変更を伴うかどうかとは無関係に「男性婚姻当事者が妻を迎える」全般を指す語であり、系図譜にしばしば記載されている「娶る」という文言と相まって、論者が無意識に混用するリスクが高く、読者にとっても無用な混乱を生じさせかねないし、「結婚する」といえば足りる。そのため、引用を除いて、「娶る」の語は使用するべきではない。

 「婿取り」は、国語辞典上は、男性婚姻当事者の苗字変更を伴うかどうかとは無関係に「女性婚姻当事者が夫を迎える」全般を指す語であり、「嫁取り」は、女性婚姻当事者の苗字変更を伴うかどうかとは無関係に「男性婚姻当事者が妻を迎える」全般を指す語であるところ、婿入り・嫁入りと対称的に婚姻形態を表す用語として定義することに実益があるといえる。そこで、苗字変更する側を基準者とした場合に、夫が苗字変更をする場合を「婿入り」、妻が苗字変更をする場合を「嫁入り」とし、また、苗字変更しない側を基準者とした場合に、夫が苗字変更をする場合を「婿取り」、妻が苗字変更をする場合を「嫁取り」とする。

 

婚姻形態 苗字変更する側が基準者 苗字変更しない側が基準者
夫が苗字変更 婿入り 婿取り
妻が苗字変更 嫁入り 嫁取り
(iv)姻族

 配偶者の親族を「姻族」という。このうち、法律婚によるものを「法定姻族」、事実婚によるものを「事実姻族」というものとする(造語)。近い親族同士が婚姻した場合は、親族であり、姻族でもあるという身分が重複する者が観念されるが、現状、排他的に定義する実益を観念できないため、一方から他方を除外しないこととした。

 「直系姻族」とは、基準者の配偶者の直系血族、又は、基準者の直系血族の配偶者をいい、「傍系姻族」とは、基準者の配偶者の傍系血族、又は、基準者の傍系血族の配偶者をいう

 「継親子関係」とは、子を有する父又は母が婚姻をした場合の、その子と相手方配偶者の関係をいい、その子を「継子」といい、相手方配偶者を「継親」、「継父」又は「継母」という。継親子関係にある者同士で養子縁組をした場合は、継親子関係と養子縁組関係が重複することになるが、状況を正確に記述するために、そのような場合は、「兼」の文字を間に挟んで併記するものとする。継親子は、1親等の姻族関係にある。

 「嫡母庶子関係」とは、基準者(男性)の本妻と庶子との間の関係をいい、当該本妻を嫡母という。嫡母と庶子は、1親等の姻族関係にある

 

姻族 配偶者の親族。
法定姻族 法律婚によって生じた姻族。
事実姻族 事実婚によって生じた姻族(前近代の婚姻制度によるものを含む)。
直系姻族 基準者の配偶者の直系血族、又は、基準者の直系血族の配偶者。
傍系姻族 基準者の配偶者の傍系血族、又は、基準者の傍系血族の配偶者。
継親子関係 子を有する父又は母が婚姻をした場合の、その子と相手方配偶者の関係。
嫡母庶子関係 基準者(男性)の本妻と庶子との間の関係。

(4)続柄概念

ア 序

 基準者と相手方の間の身分を表現する続柄は、当然ながら歴代親族構成情報を記述する上で必要不可欠のものであるところ、常識的な範囲の親族を超える続柄について、初学者はもとより、研究者間においても用語が統一されていなかったり、概念自体が存在していない領域もある。そこで、ここでは、続柄について改めて整理し、必要であれば造語する。ただし、常識的な範囲の親族については省略する。

イ 全体出生順位続柄・性別出生順位続柄・続柄仮称

 子については、性別・出生順位が判明している場合は、親族構成を明瞭に把握するため、単に「子」と書くのではなく「第一子=長女」「第二子=長男」など全体出生順位続柄・性別出生順位続柄を併記すべきであり、片方しかわからない場合でも判明している方を記載するべきである。

 また、名前が不明な人物については、古典的系図譜学において「某」と記載する慣行があり、これを採用して、名前が判明するまでの間、続柄に「某」を付し仮称として用いる(例「第一子=長男(某)」「次兄(某)」)。

 すなわち、性別を問わず出生順位に基づく子又は兄弟姉妹の詳細な続柄(第一子、第二子、第N子)を「全体出生順位続柄」といい、性別と出生順位に基づく子又は兄弟姉妹の詳細な続柄(長男、次女、次弟、末妹など)を「性別出生順位続柄」といい、人物の名前が不明だが続柄を特定できている場合に名前の代わりに研究上用いる仮称(「某」)を「続柄仮称」というものとする(いずれも造語)。

 全体出生順位続柄・性別出生順位続柄を併記するときは、続柄間に中点「・」を用いると併記かのように誤読されるリスクがあるため、「=」を用いるものとする。

 

全体出生順位続柄 性別を問わず出生順位に基づく子又は兄弟姉妹の詳細な続柄
性別出生順位続柄 性別と出生順位に基づく子又は兄弟姉妹の詳細な続柄
続柄仮称 人物の名前が不明だが続柄を特定できている場合に名前の代わりに研究上用いる仮称。名前の代わりに「某」と記載する。

 

ウ 実族・擬制自然血族・非自然実族・養族の続柄

【直系続柄】

 続柄の一覧は、下記のとおりである。実族の各続柄に「実」を冠すれば実族であることを明示した続柄となり、「擬制自然」を冠すれば擬制自然血族の続柄となり、「非自然実」を冠すれば非自然実族の続柄となり、「養」を冠すれば養族の続柄となる。

 5世祖父母以前や10世孫以降の直系続柄について世代数を用いない表現が存在しないため、これらについて新たに造語すべきかも問題となるが、現時点では、造語して徒に理解しにくくするよりも世代数で表現して直感的理解を優先する方が妥当と考える。さらにいえば、玄孫までなら「やしゃご」という読み方も含めて一般的であるものの、来孫~雲孫の語は、系図系譜研究においてすらあまり使われないようであるから、直感的理解を重視するため、来孫以降は6世孫などの語を使用するものとした方がよいと思われる。

 

続柄 語義 禁止すべき同義語
○世祖父母 基準者の父母を第1世とし、尊属方向に遡るごとに数字が大きくなる

5世祖父母以前に使用。

5世祖父母 基準者の高祖父母の父母
高祖父 基準者の曾祖父母の父
高祖母 基準者の曾祖父母の母
曾祖父 基準者の祖父母の父 ひいじいさん
曾祖母 基準者の祖父母の母 ひいばあさん
祖父 基準者の父母の父 祖父上、翁
祖母 基準者の父母の母 祖母上、媼
基準者の父 父上、父君、父御、厳父
亡父 基準者の死亡した父 先考
基準者の母 母堂、母君、母御、慈母
亡母 基準者の死亡した母 先妣
基準者の子

男性は男子

女性は女子

男、倅、御曹司、女、令嬢
嫡出子 婚姻関係にある父母から生まれた子
非嫡出子 婚姻関係にない父母から生まれた子
庶子 正妻でない者を母とする子
基準者の子の子

男性は男孫

女性は女孫

曾孫 基準者の孫の子 ひ孫
玄孫 基準者の曾孫の子(5世孫) ひ孫の子
○世孫 基準者を第1世とし、卑属方向に下るごとに数字が大きくなる

6世孫以降に使用推奨。

来孫 玄孫の子(6世孫) 耳孫
昆孫 来孫の子(7世孫)
仍孫 昆孫の子(8世孫)
雲孫 仍孫の子(9世孫)
10世孫 雲孫の子

 

【傍系続柄】

続柄 語義 禁止すべき同義語
基準者の父母の実子で、基準者より年長の男子。

複数いる場合は年齢順に長兄・次兄・三兄・四兄〜末兄

兄上、兄者、兄貴
基準者の父母の実子で、基準者より年長の女子

複数いる場合は年齢順に長姉・次姉・三姉・四姉〜末姉

姉上、姉者、姉御、姉貴
基準者の父母の実子で、基準者より年少の男子。

複数いる場合は年齢順に長弟・次弟・三弟・四弟〜末弟

基準者の父母の実子で、基準者より年少の女子。

複数いる場合は年齢順に長妹・次妹・三妹・四妹〜末妹

異父兄弟姉妹 父が異なる兄弟姉妹(種違い)

複数いる場合は年齢順に異父長兄弟姉妹・異父次兄弟姉妹・異父三兄弟姉妹・異父四兄弟姉妹〜異父末兄弟姉妹

異母兄弟姉妹 母が異なる兄弟姉妹(腹違い)

異母長兄弟姉妹・異母次兄弟姉妹・異母三兄弟姉妹・異母四兄弟姉妹〜異母末兄弟姉妹

伯父 基準者の父母の兄 おじ(叔父と混用)、伯父貴
伯母 基準者の父母の姉 おば(叔母と混用)
叔父 基準者の父母の弟 おじ(伯父と混用)、叔父貴
叔母 基準者の父母の妹 おば(伯母と混用)
基準者の兄弟姉妹の男子
基準者の兄弟姉妹の女子
伯祖父(おおおじ) 基準者の祖父母の兄 大伯父
伯祖母(おおおば) 基準者の祖父母の姉 大伯母
叔祖父(おおおじ) 基準者の祖父母の弟
叔祖母(おおおば) 基準者の祖父母の妹
大甥 基準者の兄弟姉妹の孫のうち男子 又甥・姪孫
大姪 基準者の兄弟姉妹の孫のうち女子 又姪・姪孫
従甥 基準者の従兄弟姉妹の男子
従姪 基準者の従兄弟姉妹の女子
従兄弟姉妹(いとこ) 基準者の父母の兄弟姉妹の子。

基準者との年齢差・性別により、従兄、従姉、従弟、従妹と区別する

再従兄弟姉妹(はとこ・またいとこ) 基準者の祖父母の兄弟姉妹の孫 又従兄弟姉妹
三従兄弟姉妹(みいとこ) 基準者の曾祖父母の兄弟姉妹の曾孫
四従兄弟姉妹(よいとこ) 基準者の高祖父母の兄弟姉妹の玄孫
従伯叔父母(いとこおじ・いとこおば) 基準者の父母の従兄弟姉妹
再従伯叔父母 基準者の親の再従兄弟姉妹
三従伯叔父母 基準者の親の三従兄弟姉妹
四従伯叔父母 基準者の親の四従兄弟姉妹
従祖伯叔父母 基準者の祖父母の従兄弟姉妹
従姪孫 従兄弟姉妹の孫 いとこ大甥・いとこ大姪
再従姪孫 再従兄弟姉妹の孫 はとこ大甥・はとこ大姪
曽姪孫 兄弟姉妹の曽孫

エ 姻族の続柄

 姻族続柄については、娘の夫を「女婿」、「娘婿」、「聟」など複数のバリエーションがあるし、配偶者の父母についても「義父」、「岳父」、「舅」、「義母」、「岳母」、「丈母」、「姑」など複数のバリエーションがあるため、同義語については統一する必要がある。

 「娘婿」とは、基準者の娘の夫である。娘婿については「女婿」という表記が、「婿」については「聟」という表記があるが、系図系譜学では、講学上、それぞれ上記のとおりに統一するものとする。また、娘婿と婿養子は別の語義とし、娘婿については、苗字の変更をしたかどうかを問わないものとし、婿養子の語義での使用及び苗字変更ありに限定した用法を禁止すべきである。

 「媳婦」(せきふ)とは、基準者の息子の妻である。「嫁」の語は、単なる「息子の妻」のみならず、嫁入りして苗字を変更した妻をも指す多義語として強固に定着しており、系図譜にしばしば記載されている「嫁す」という文言と相まって、論者が無意識に混用するリスクが高いため、「基準者の息子の妻」の語義で「嫁」を使用することは禁止するのが相当である。

 「丈母」と「岳母」は、いずれも「妻の母」を意味し、「岳父」は「妻の父」を意味するものであるところ、一応の実益を観念できないわけではないものの、これらに相当する夫の父母を意味する語が存在せず、造語することも困難であるから、採用しないものとする。少なくとも、「丈母」に相当する「妻の父」を意味する語すら存在しない以上、「丈母」の語は採用し得ない。

 「義父母」は、広義には、①配偶者の父母、②養父母、③継父母を包含する語であるが、②③についてはそれぞれ養父母・継父母の語で指称すれば明確であるのに対し、①については、少なくとも夫については義父母又は舅姑というほかない。そうすると、「配偶者の父母」として、広義(養父母・継父母を含む)か狭義(それらを含まない)かが一見紛らわしい「義父母」より舅姑の方を採用すべきかが問題となるが、義兄弟姉妹との統一性を欠くし、「舅」には「母の兄弟(=伯叔父)」という語義もあって義父母と同様の紛らわしさもあるため、統一性を優先して狭義の「義父母」を「配偶者の父母」と定義して採用することとした。

 

続柄 語義 禁止すべき同義語
配偶者 婚姻当事者の一方からみた他方 連れ合い、パートナー
男性である婚姻当事者 良人、主人(身分的ニュアンスを伴うため)
女性である婚姻当事者 内室、室(別の文脈で用いる場合を除く)、奥方、家内
大舅 基準者の配偶者の祖父
大姑 基準者の配偶者の祖母
義父 基準者の配偶者の父 岳父、舅
義母 基準者の配偶者の母 岳母、丈母、姑
義兄 基準者の配偶者の兄、または基準者の姉の配偶者 小舅
義姉 基準者の配偶者の姉、または基準者の兄の配偶者 小姑
義弟 基準者の配偶者の弟、または基準者の妹の配偶者 小舅
義妹 基準者の配偶者の妹、または基準者の弟の配偶者 小姑
娘婿 基準者の娘の夫(基準者との養子縁組なし) 女婿、聟、婿
媳婦 基準者の息子の妻(基準者との養子縁組なし)
嫡母 基準者(男性)の父の本妻で、基準者の実母でない者(嫡母庶子関係)
継父 基準者の親の再婚相手(男性)で、基準者と養子縁組をしていない者。複数いる場合は第一・第二を付す 義父(義父は配偶者の父の語として使用するため)
継母 基準者の親の再婚相手(女性)で、基準者と養子縁組をしていない者。複数いる場合は第一・第二を付す 義母(義母は配偶者の母の語として使用するため)
継子 配偶者の前婚等による子で、基準者と養子縁組をしていない者(継親子関係) 連れ子(日常語)
父前配 基準者の実父が、基準者が生まれる前に結婚していた者で、基準者の実母でない者(父の前の配偶者→父前配。造語)
母前配 基準者の実母が、基準者が生まれる前に結婚していた者で、基準者の実父でない者(母の前の配偶者→母前配。造語)
元夫・元妻 基準者が離別した配偶者の総称。複数いる場合は第一・第二を付す
前夫・前妻 基準者が直前に離別した配偶者
後夫・後妻 基準者の再婚相手。複数いる場合は婚姻順に第一・第二を付す

オ 養族の続柄

 

続柄 語義 禁止すべき同義語
養父 養子縁組により基準者の父となった者 義父(義父は配偶者の父の語として使用するため)
養母 養子縁組により基準者の母となった者 義母(義母は配偶者の母の語として使用するため)
養子 養子縁組により基準者の子となった者(男)
養女 養子縁組により基準者の子となった者(女)
養兄 基準者の父母の養子又は基準者の養父母の子で、基準者より年長の男性
養姉 基準者の父母の養子又は基準者の養父母の子で、基準者より年長の女性
養弟 基準者の父母の養子又は基準者の養父母の子で、基準者より年少の男性
養妹 基準者の父母の養子又は基準者の養父母の子で、基準者より年少の女性

カ 複合続柄

 比較的近い親族で婚姻した場合、「Aは、基準者Bにとって従兄であり従甥でもある」というように、同一人物が複数の続柄に該当するケースが少なくない。そこで、そのようなケースを表す複合続柄という概念も一応観念されるところ、そのようなものはほとんど存在しないため、新たに複合続柄を造語すべきか、それとも「従兄兼従甥」というように「兼」の字を間に挟んで表現すれば足りるものとすべきかが問題となる。

 これについては、現時点では、造語して徒に理解しにくくするよりも「兼」を用いて並記して直感的理解を優先する方が妥当と考える。

 したがって、同一人物が複数の続柄に該当する場合は、「従兄兼従甥」のように「兼」の字を間に挟んで表現するものとする。ただし、「婿養子」は確立された複合続柄であるから、採用されるべきであるし、その採用に伴って対概念として「嫁養子」も採用するものとし、「多重いとこ」も2家系が密接な関係にあった可能性を把握できるようになるため、採用する実益がある。

 「婿養子」とは、基準者の娘の夫であり、かつ、基準者と養子縁組をした者をいう。これは、Aが娘Bの夫Cの姻族であり、かつ、養子Cの養親である点で、2つの続柄に該当するというものである。同様に、「嫁養子」とは、基準者の息子の妻であり、かつ、基準者と養子縁組をした者をいうものとする。

 「二重いとこ」とは、父方及び母方の双方において基準者と従兄弟姉妹関係にある者をいう。これは、AがBの父方のいとこであり、かつBの母方のいとこでもある点で、厳密には2つの続柄に該当するというものである。甲家の兄弟姉妹2名以上と乙家の兄弟姉妹2名以上が複数組の婚姻関係を結び出産した場合、その子ども同士は全員が二重いとこの関係となる。甲家・乙家それぞれの兄弟姉妹の人数は2名に限らず、3名以上であっても同様である。

例えば、

  • Aの父とBの父が兄弟姉妹、かつ、Aの母とBの母が兄弟姉妹
  • Aの父とBの母が兄弟姉妹、かつ、Aの母とBの父が兄弟姉妹

などの組み合わせがありえる。

 

婿養子 基準者の娘の夫であり、基準者と養子縁組をした者
嫁養子 基準者の息子の妻であり、かつ、基準者と養子縁組をした者
二重いとこ 父方及び母方の双方において基準者と従兄弟姉妹関係にある者

 

(5)承継概念群

ア 序

 「当主」や「家系」などの氏族・一族・家系の承継に関する概念群は、系図系譜研究における基礎となる重要なものであるから、用語論においてそれらを策定する必要がある。しかし、それらが何を軸に画定されているのかは必ずしも明らかではないから、この軸は何かが問題となる。

 日本民法(明治29年法律第89号)は、「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」と定めており(897条1項)、家制度の名残として現行民法においても祖先の祭祀について規定されているものと解される

 他方、祭祀に加えて財産や称号、職能、あるいはそれらの総体としての家督を承継の対象として挙げる見解もあるが、祭祀以外は時期や地域、あるいは個別の家系次第で必ずしも承継されるとは限らず、特定の時期及び地域における特徴ないし傾向に過ぎないから、判断基準たるべき定義に含むべきではない。なぜなら、仮に「祭祀、財産、称号及び職能を承継する」を定義に含んだ場合、日本の現行民法下では、名誉市民などの称号は一身専属のものであって相続の対象にならないし、世襲でききない職業(公務員や業務独占資格に基づく業種、ほとんどのサラリーマンが該当)に就いていたり、限定承認をしたり遺言や相続放棄によって財産を承継しなかった人々には「家系」の概念が当てはまらないということになって常識に反するからである。

 そもそも系図系譜学は、その対象を日本に限定したものでもないから、日本の一時期に限定した特徴を挙げて定義をするべきではない。そのため、かかる見解の主張者は、一部の時期ないし地域にしか通用しない特徴ないし傾向を挙げたものであって、用語を策定するには視野狭窄に過ぎるといわざるをえない。

 また、仮に祭祀を除外して、家系概念が苗字のみを軸にしているとすると、同じ苗字を称する親族集団全体が家系であるということになり、いずれが本家でいずれが分家かを区分する客観的基準が存在しないということになるから、本家や分家という区分概念が成り立たなくなって常識に反する。また、同様に、家系概念が血縁関係のみを軸にしているとすると、血縁関係に際限はないから、家系という区分を観念できなくなり、家系という概念そのものが成立しなくなるから、背理となる。そしてこの理は、氏族や一族にも妥当する。

 よって、祭祀の承継・主宰が氏族・一族・家系の根幹というべきであり、それを軸として氏族・一族・家系の承継に関する概念群を把握し策定すべきである。

イ 始祖概念群

 氏族も家系も誰かから始まったものであるから、その創始者について定義する必要がある。

 ある氏族においてその氏族名を最初に称した者(称することとなった者を含む。)を「氏祖」というものとする。例えば、藤原鎌足(藤原氏の氏祖)、源経基(清和源氏の氏祖)がこれに当たる。

 自らが祭祀の対象となるべき家族を形成した者を「家祖」というものとする。例えば、足利義康(足利宗家の家祖)、徳川家康(徳川将軍家の家祖)、徳川頼房(水戸徳川家の家祖がこれに当たる。

 一族の宗家の家祖を「族祖」というものとする(造語)。一族は、家系が分家を増やして規模が大きくなったものであるから、族祖は、その一族の宗家の家祖である。例えば、足利義康(足利一族の族祖)、徳川家康(徳川一族の族祖)がこれに当たる。

 「始祖」とは、氏祖・族祖・家祖の総称とする。「始祖」の類語に「初祖」「元祖」があり、日常語としては「始祖」と同義だが、「初祖」は使用頻度が低いし、「元祖」は商標・ブランドの文脈で使用されることが多いため、学術用語として採用しがたいから系図系譜学では「始祖」に統一することとした。

 「初代」とは、第2代以降の祭祀承継者との相対的関係における始祖の呼称である。

 始祖と初代を峻別する理由は、確かに始祖と初代は同一であるかのように思われるものの、初代が第2代以降の歴代当主を含めた祭祀承継順の第一であって第2代以降との関係に言及することを予定する語であるのに対し、始祖は、そうではないことに加えて、特に氏祖・族祖については、ある氏族・一族という範囲内において当該氏族・一族が複数に分岐した各一族・家系の初代の共通の起点たる祖先であるというだけであって、それらの祭祀承継順とは関係がないことから、峻別する必要がある。すなわち、始祖は初代でもあるが、あくまで初代は、第2代以降との相対的関係における始祖の呼称として位置づけるべきである。

 

氏祖 ある氏族においてその氏族名を最初に称した者(称することとなった者を含む。)
家祖 自らが祭祀の対象となるべき家族を形成した者。
族祖 一族の宗家の家祖。
始祖 氏祖・族祖・家祖の総称。
初代 第2代以降の祭祀承継者との相対的関係における始祖の呼称。

ウ 祭祀・相続概念

 相続などの承継に関する概念も系図系譜研究において極めて重要である。もっとも、相続その他の制度は、時期や地域によって多かれ少なかれ差異があることから、できる限り中核的な定義を策定する必要がある。

 そこで、「相続」とは、ある者の死亡の事実に基づき、その者に帰属していた財産上の権利義務及び地位(祭祀に関する権利及び一身専属性のあるものを除く)を承継することをいい、「被相続人」とは、当該承継において財産等を承継される者、すなわち当該死者をいい、「相続人」とは、当該財産等を承継する者をいうものとする。そして、代襲相続とは、相続人が相続開始以前にすでに死亡していたり、相続人たる資格を喪失している場合に、その子又は孫が代わって相続することをいい、当該子を代襲者といい、さらに再代襲相続とは、代襲者がすでに死亡していたり、相続人たる資格を喪失している場合に、代襲者の子(被相続人の孫)が代わって相続することをいい、当該孫を再代襲者といい、曾孫以降も同様となる

 祭祀財産は、民法897条では、系譜、祭具及び墳墓からなるとされるが、全ての家系に必ずしも系譜や祭具があるとも限らないし、逆に、自家先祖調査の成果としての系図譜を親戚に配る者も少なくない上、とりわけ系図系譜研究者は血縁関係にない氏族・家系の系図譜(の写し)を多数所有する以上、系図譜を所有するからといって祭祀主宰者であるということはできない。逆に、墳墓の所有権がなければ祭祀を主宰することができない以上、墳墓を所有することが祭祀主宰者の不可欠の要件というべきであるし、また、祭具が祭祀に用いる道具であるのに対し、祖霊舎や仏壇などの祭壇を含まないと解するのは不自然であって、大概の宗教において祭壇も祭祀の執行に必要と認められるから、祭壇も祭祀財産に含むべきである。

 「祭祀権」とは、祭祀を主宰する権利及び墳墓、祭壇その他の祭祀財産の所有権をいう。

 「祭祀主宰者」とは、葬祭その他の祭祀を主宰する者をいうものとする。次に定める祭祀承継者は、祭祀権の承継という単発的行為に着目した概念であるのに対し、祭祀の主宰は反復継続して行われる継続的行為であり、行為の性質及び内容が異なるし、初代が自身より先に妻子が死亡した場合はその祭祀権を取得するため、別に用語を策定した。なお、本人が現実に祭祀を主宰できず、代理人に行わせる場合も、代理人の行為の効果は本人に帰属するのであるから、あくまで祭祀を主宰しているのは本人である。

 「祭祀承継者」とは、従前の祭祀主宰者の祭祀を主宰する権利を取得した者、又は墳墓、祭壇その他の祭祀財産の所有権及び祭祀を主宰する権利を承継した者(いずれも代理人を除く。)をいうものとする。墳墓、祭壇その他の祭祀財産の所有権について承継に限定した理由は、第2代は、第2代自身がこれを原始的に取得するとは限らず、初代自身が生前墓を建立=かかる所有権を取得した場合に第2代が初代から承継することもある一方、取得も含むとすると、生前墓等を取得した初代自身もこの定義に該当し祭祀承継者ということになって矛盾する。そのため、初代による墳墓、祭壇その他の祭祀財産の所有権の取得を定義から除外する必要がある。なお、初代自身が自己の祭祀を自ら執行するということは、始祖が極めて稀な宗教観を有する場合のみであるから、祭祀を主宰する権利を取得した者に初代自身は当然に含まれない。

 「祭祀承継予定者」とは、祭祀を主宰する権利を取得すること、又は祭祀承継者から墳墓、祭壇その他の祭祀財産の所有権及び祭祀を主宰する権利を承継することが第1順位で予定される者をいい、特に、始祖又はその祭祀承継者の実子である祭祀承継予定者を「嫡子」といい、始祖又はその祭祀承継者の実孫である祭祀承継予定者を「嫡孫」というものとする。「養嫡子」とは、婿養子縁組をした上で始祖又はその祭祀承継者たる養親との間で祭祀承継予定者となることが約束された養子をいうものとする

 なお、「正嫡」「正統」「正系」「次期当主」などの語は、同義語過多あるいは語義過多で極めて紛らわしいため、引用を除き、使用を禁止するべきである。なお、正嫡等ではなく嫡子等を採用した理由は、正嫡等とは異なり、嫡子等は、祭祀主宰者との続柄を表示でき、また、「本家」等の別の語義を含まないからである。

 「隠居」とは、祭祀主宰者が祭祀承継予定者に対して祭祀権を承継し、家族の一員になることをいう。

 

相続 ある者の死亡の事実に基づき、その者に帰属していた財産上の権利義務及び地位(祭祀に関する権利及び一身専属性のあるものを除く)を承継すること
被相続人 相続において財産上の権利義務及び地位(祭祀に関する権利及び一身専属性のあるものを除く)を承継される者、すなわち当該死者
相続人 相続において財産上の権利義務及び地位(祭祀に関する権利及び一身専属性のあるものを除く)を承継する者
祭祀権 祭祀を主宰する権利及び墳墓、祭壇その他の祭祀財産の所有権
祭祀主宰者 葬祭その他の祭祀を主宰する者
祭祀承継者 従前の祭祀主宰者の祭祀を主宰する権利を取得した者及び墳墓、祭壇その他の祭祀財産の所有権並びに祭祀を主宰する権利を承継した者(いずれも代理人を除く。)の総称
祭祀承継予定者 祭祀を主宰する権利を取得すること、又は祭祀承継者から墳墓、祭壇その他の祭祀財産の所有権及び祭祀を主宰する権利を承継することが第1順位で予定される者
嫡子 始祖又はその祭祀承継者の実子である祭祀承継予定者
嫡孫 始祖又はその祭祀承継者の実孫である祭祀承継予定者
養嫡子 婿養子縁組をした上で始祖又はその祭祀承継者たる養親との間で祭祀承継予定者となることが約束された養子
隠居 祭祀主宰者が祭祀承継予定者に対して祭祀権を承継し、家族の一員になること。

エ 氏主・族主・当主

 氏族・一族・家系の代表者の名称としては、氏長者や氏上、惣領があるが、これらの語は日本の一時期の語義が強固に定着しているため、そのまま他の地域や時期に適用すると混乱が生じることが強く懸念される。そこで、家系についていう「当主」に合わせて「氏主」及び「族主」を造語した。他方、「当主」について合わせて「家主」とすると、「建物賃貸人」の語義との誤解が生じるため、家系については「当主」のままとした。

 「氏主」とは、氏祖及び氏族の祭祀を主宰し、その氏族を代表する者をいうものとする。

 「族主」とは、族祖及び一族の祭祀を主宰し、その一族を代表する者をいうものとする。

 「当主」とは、家祖及び家系の祭祀を主宰し、その家系を代表する者をいうものとする。

 氏長者、惣領、戸主などの特定の時期・地域における上記各講学用語に該当する名称を上記各語の代替語とすることはできず、あくまで特定の時期・地域における具体的な名称としてのみ使用するものとする。

 

氏主 氏祖及び氏族の祭祀を主宰し、その氏族を代表する者
族主 族祖及び一族の祭祀を主宰し、その一族を代表する者
当主 家祖及び家系の祭祀を主宰し、その家系を代表する者

オ 家系

 アで述べたとおり、家系は、祭祀を軸に策定されるべきであり、祭祀の対象は、通常、歴代当主とその配偶者、独身の子である。

 そこで、「家系」とは、歴代当主とその配偶者及び独身の子の総体をいうものとする。

 なお、太田亮は、「家系」を「家の祖先」と定義しているが、「家」は生物ではなく概念なのだから「祖先」を観念することはできないし、歴代当主とその家族を想定しているのだとしても、「祖先」といえる程度の範囲よりも最近の人々を除外することになりかねないし、「祖先」といえる程度の範囲がどこまでかも全く不明瞭であり、極めて使い勝手の悪い定義であるから、この定義を採用することは到底できない。

 また、青山幹哉は、「家系」について、「家の第一祖から家の長としての地位(「家督」と称すことが多い)を継承していった子孫の系統(嫡流)を過去から現在にいたる家の継続性と重ねて意識したとき、嫡流と他家へ婚姻・養子等により転出していない子を含めた家構成員を指す概念である。」と定義しているが、「家の第一祖から家の長としての地位を継承していった子孫の系統」に「他家へ婚姻・養子等により転出していない子を含」む点については、「系統」の語が混線も含んで他の系統の派生語と矛盾しかねない大雑把な「連なり」というようなものであるほか、「第一祖」を定義していないし、また、「過去から現在にいたる家の継続性と重ねて意識したとき、」という意味不明な文言が存在し、「家系」という時間経過による構成員の変更が観念される用語であるのに「構成員」に意味の主軸を置いてまるで1時点の構成員を指すかのようなニュアンスを帯びた点で語義の策定を誤ったものというべきであり、これも採用することができない。おそらく、意味の主軸を「構成員」としたために、時系列性を表現しなければならなくなって「過去から現在にいたる家の継続性と重ねて意識したとき、」という文言を付加したものと考えられるが、そうであれば、時系列性を含意する「系統」の語を素直に主軸に置けば簡明な表現になった。また、「家の長としての地位」についても、大日本帝国憲法時代以前の家族制度については妥当しうるとしても、日本国憲法施行後の日本の家族制度においては、祭祀承継者の地位はあるものの、「家の長としての地位」は存在しないのだから、「家の長としての地位」ではなく、通時的に共通する要素である「祭祀承継者の地位」という趣旨の文言を選択すべきであった。

 

家系 歴代当主とその配偶者及び独身の子の総体。

 

カ 本分家概念群

(ア)序

 家系間の位置づけに関する概念として、嫡流・庶流・傍流、宗家・大本家・本家・分家・別家・末家などの語があり、同義語が極めて多いものの、講学上の定義を峻別することにより、議論の精緻化を図ることができる。

 まず、直感的に理解しやすいように、宗家・分家等「家」の文字を含むものを小規模一族レベルに限定し、「流」の文字を含むものを氏族・大規模一族レベルに限定する。

(イ)小規模一族レベル

小規模一族レベルの本分家概念群

├── 分立元

│   ├── 宗家

│   ├── 大本家

│   └── 本家

└── 分立先

     ├── 分家

     └── 末家

 

 「宗家」とは、小規模な一族の族祖以来の祭祀を承継する家系をいう。この規模については、異なる苗字の分家が輩出されたかどうかで判断する。

 「本家」とは、基準となる家系が直接分立した元の家系をいう。

 「大本家」とは、基準となる家系にとっての本家の本家をいう。

 「分家」とは、基準となる家系から直接分立した家系をいう。

 「末家」とは、基準となる家系の分家から分立した家系をいう。

 本家・大本家・分家・末家は、いずれも基準となる家系との相対的関係によって定まる概念であり、同一の家系であっても基準となる家系が異なれば該当する概念も異なる。例えば、本家あるいは大本家が宗家でもあるということもありえるし、大本家が存在しないこともありえるし、ある家系にとっての本家は別の家系にとっての分家でもあるということもありえる。

 なお、別家という語もあるが、これは分家と同義語で用いられる以外に、商人の暖簾分け先をいうこともあって紛らわしいため、採用しないこととする。そのため、分家と同義で現に「別家」の語が用いられている場合は、補足情報として言及した上で、講学上の「分家」として扱うものとする。

 

宗家 小規模な一族の族祖以来の祭祀を承継する家系
本家 基準となる家系が直接分立した元の家系
大本家 基準となる家系にとっての本家の本家
分家 基準となる家系から直接分立した家系
末家 基準となる家系の分家から分立した家系

 

(ウ)氏族・大規模一族レベル

氏族・大規模一族レベルの本分家概念群

├── 嫡流

├── 傍流

├── 庶流

└── 支流

(i)序

 氏族・大規模一族レベルの本分家概念群については、中心となる家系を示す用語は確実に必要であるが、小規模一族レベルの本家・大本家や分家・末家と異なり、家系数が多く複雑であるから相対的概念を策定することにあまり実益はないと考えられる。そこで、中心となる家系以外の家系についてどのような区分が必要かが問題となる。

 なお、「末流」の語を嫡流から遠い分家や末裔の家系ような意味で用いる伝統的系譜学研究が散見されるところ、分家・末家のような客観的基準を示すことができる相対的概念とは異なり、中間の分家群や一族の数が多いことから何となく遠いという感覚的な基準しか定立できないし、数えられるのだとしても、嫡流とどのような相対的位置にあるのかを示すには漠然とした「末流」ではなく「庶流の支流」(各定義は下記)のような説明をすべきである。また、「末流」を「ある系統の系図譜又は時間軸における最近の世代範囲人々」と定義して用いるとしても、その対義語は「源流」であり、「源流」を「始祖に近い世代範囲の人々」と定義するのは不自然であり、むしろ、それぞれ「祖先」や「後裔」と称するのが自然である。そのため、「末流」の語は採用しない。

(ii)嫡流

 「嫡流」は、伝統的系譜学ないし歴史学あるいは日常語では、漫然と「宗家」と中心となる家系というような意味の同義語としても用いられているが、峻別して用いることによって研究を精緻化することができる。

 そこで、「宗家」を少なくとも小規模一族の中心的家系として位置づけることとパラレルに、「嫡流」を基準となる氏族の氏祖又は大規模な一族の族祖以来の祭祀を承継する家系とするべきである(大規模・小規模の区分基準は(イ)を参照)。

 なお、「正系」・「嫡系」・「嫡統」の語もあるが、いずれも同義語として使われており、差異がなく、接尾辞が「系」あるいは「統」であり、これに対応する分立した家系群を意味しうる既存語には「庶系」しかなく、「庶流」等を併存させると接尾辞の統一感に欠けること、宗家・大本家・本家とは異なり、字面からそのような相対概念として定義を付与することが困難であることから、これらに嫡流を加えた同義語を併存させると混乱を招くため、「正系」・「嫡系」・「嫡統」を使用すべきではない。特に「正系」は、「正しい系統。正しい血筋。正統。」という語義であり、対義語としては「正しくない系統。正しくない血筋」という語義の用語を観念することになるが、「正しくない血筋」というのは不当極まりない表現であって到底採用することができないから、その帰結として「正系」も採用することができない。

(iii)傍流

 「傍流」は、一般的には、非主流の家系とか分家のような意味でも用いられるが、単一の分家というより複数の分家群を志向していることから、氏族・大規模一族レベルの用語として策定する。他方で、主流でないかどうかというのは、時期によっても異なりうるし、判定するのが困難な場合もあり、また、修飾語を用いれば足りることから、外形的に判断できる定義を策定すべきである。

 そこで、「傍流」とは、基準となる嫡流と同じ苗字を家名とする分家群をいうものとする。

(iv)庶流

 「庶流」は、一般的には、庶子を家祖とする分家のような意味でも用いられるが、単一の分家というより複数の分家群ないし一族的単位をも指しうることから、氏族・大規模一族レベルの用語として策定する。

 そこで、「庶流」は、基準となる庶子を宗家家祖ないし族祖として分立した、苗字の異なる分家群ないし一族をいうものとする。

 なお、「庶系」の語もあるが、「庶流」や「傍流」と同義語として使われており、「庶流」と「庶系」を併用した場合は極めて紛らわしく混乱を招くこと、また、接尾辞が「系」であり、分立した家系群を意味しうる既存語は他にないことから、「傍流」と「庶系」を併用した場合は接尾辞が「流」と「系」となって統一感もないことから、これを使用すべきではない。

(v)支流

 「支流」も、伝統的系譜学では比較的使用される語彙であるが、「傍流」と同義的に用いられているため、独自の語義を付与することが考えられる。

 「傍流」を嫡流と同じ苗字を家名とする分家群の総称とし、「庶流」を庶子を宗家家祖ないし族祖として分立した、苗字の異なる分家群ないし一族とすることから、それらの空白領域をカバーする。

 すなわち、「支流」とは、基準となる嫡出子を宗家家祖ないし族祖として分立した、苗字の異なる分家群ないし一族をいうものとする。

 

嫡流 基準となる氏族の氏祖又は大規模な一族の族祖以来の祭祀を承継する家系。
傍流 基準となる嫡流と同じ苗字を家名とする分家群。
庶流 基準となる庶子を宗家家祖ないし族祖として分立した、苗字の異なる分家群ないし一族。
支流 基準となる嫡出子を宗家家祖ないし族祖として分立した、苗字の異なる分家群ないし一族。

キ 家系の変動に関する概念群

 家系の変動に関する概念群も系図系譜学においては極めて重要である。例えば、日本においては、旧民法上の分家、一家創立、絶家、廃家、廃絶家再興がある。もっとも、これらの用語は、旧民法の用語であって、他の時期や地域に適用しえない要素を含むため、より汎用的な上位概念として用語を策定する必要がある。

 家系の創始については、次の2つが観念される。

 「新家創立」とは、ある氏族又は家系の一員が、その属する氏族又は家系から分離して、異なる苗字の家系を創立する行為をいう(造語)。

 「分家創立」とは、ある家系の一員が、その属する家系から分離して、同じ苗字の家系を創立する行為をいう(造語)。

 家系の終了については、次の2つが観念される。

 「家系断絶」とは、当主及び祭祀承継予定者が不在となり家系の祭祀の承継が途絶することをいう。

 「家系廃止」とは、当主が自家の祭祀の承継を意図的に終了させることをいう。

 終了した家系の再開については、次の語が観念される。

 「家系再興」とは、断絶し又は廃止された家系の祭祀を再開することをいう。

 氏族及び一族については、賜姓などによる氏族の創始を除き、その嫡流ないし宗家の変動に帰着するため、上記に相当する各用語を定めないが、嫡流ないし宗家の祭祀が分家に移転した場合については2パターン観念され、①分家の人物が嫡流ないし宗家の当主の養子となって嫡流ないし宗家の祭祀を承継する場合は通常の承継の一態様であるが、②分家の当主が養子とならずに嫡流ないし宗家の祭祀を承継する場合にどう把握すべきかが問題となり、「家系合祀」というような用語とすることが考えられるところ、これについては詳細な研究が必要であるから、事象研究において策定するものとする。 

 

新家創立 ある氏族又は家系の一員が、その属する氏族又は家系から分離して、異なる苗字の家系を創立する行為。
分家創立 ある家系の一員が、その属する家系から分離して、同じ苗字の家系を創立する行為。
家系断絶 当主及び祭祀承継予定者が不在となり家系の祭祀の承継が途絶すること
家系廃止 当主が自家の祭祀の承継を意図的に終了させること
家系再興 断絶し又は廃止された家系の祭祀を再開すること